特例子会社における障がい者の活躍推進~事例:リクルートオフィスサポート~

PFCの研究テーマの一つに「ダイバーシティ(多様性)」がある。ダイバーシティとは、組織に異質な人材を取り込み、新たな競争力を生み出すための取り組みであり、ダイバーシティ推進のためのアプローチは大きく次の3つに分けられる。

「同化」・・少数派に対し、多数派と同じような働き方を求める
例)男性と同じように働ける女性を昇格させる
日本の本社では日本語を共通語とし、外国人に日本文化への適応を求める

「分離」・・少数派を多数派から分離し、別の組織、チームで活動させる
例)女性のみの商品開発チーム
海外のマーケティングは現地スタッフのチームで行う など

「統合」・・少数派と多数派が職場に混在し、対等かつ公平な環境下で、互いの個性を認め
合いながら創意工夫をし、最大限の効果をあげる

PFCでは、企業が目指すべき究極のダイバーシティは、3つめの「統合」アプローチが体現された組織であると考えている。しかしながら、企業の業種や規模などの置かれている環境によって、この入口は異なる。とりわけ、設備投資面や制度を導入する上で課題が大きい場合は、「分離」からアプローチし、ダイバーシティを体現していくことも一つの手段である。今回は、この「分離」アプローチの組織の代表例として「特例子会社」の仕組みを利用して障がい者の戦力化を推進している「リクルートオフィスサポート」の事例を紹介したい。(訪問日:2015年10月8日)

株式会社リクルートオフィスサポートの概要

リクルートオフィスサポートは、リクルートグループ各社に対する、コピーや製本代行などの「オフィスサービス」、個人情報や機密情報を扱う「情報関連事業」、「経理事務代行事業」の3つを業務として扱う特例子会社である。全社員約250名のうち、およそ4/5が障がい者という社員構成で、その障害の部位も多岐にわたる。(注1)

同社では、「物理的ハンディキャップは会社が埋める。その上で各自に、成果を求める」という明確な指針のもとに組織運営をしている。

その思想どおり、同社における設備や制度は非常に整備されているわけであるが、ここでPFCが注目したいのは、制度や設備などのハード面の充実のみならず、あくまでも社員の「成長」を追求している点にある。

◎障がい者のもつ能力を発揮してもらうために工夫(配慮)している点
ここで、PFCが考える効果的な組織・チームの3要素(ベクトル・プロセス・ヒューマン)の観点から、同社の運営を検証してみよう。(注2)

  • ベクトル
    • 多様な社員のベクトルあわせ:障がい者と健常者という属性で見た場合、同社はグループ全体においては分離アプローチの結果成立した組織と言えるが、社内を見ればむしろ障がい者が多数派を占めており、その障がいの種類、程度も様々である。そのため、社内では対等な「統合」アプローチが実現されている。同社では業務の見える化、社内のクラブ活動やイベントを通じてその多様なメンバーの統合を図っている。
    • リクルートグループ各社とのベクトルあわせ:雇用拡大に伴う職域拡大の場面で、売上は大きいものの単発短納期で“雇用に適さない業務”の発注など、グループ会社との認識の違いがあったという。そこで同社では、障がい者雇用関連法令・活動紹介のビデオの作製や勉強会を開催することで、グループ内の理解の促進に努め、障がい者活躍を推進している。
  • プロセス
    • 「業務内容・進捗の見える化を徹底する」:急な体調不良や通院による欠勤などに備え、互いの業務の進捗共有や見える化は必要不可欠である。例えば、人事異動に伴いグループ各社から年間受注量の1/5以上が2週間に集中する名刺業務では、多数の短期派遣スタッフの協力を得ながら品質と納期を守る必要がある。そこで、初めての人でも簡単なレクチャーでミスなく効率的に作業を進められるように、メンバーが自身も業務を遂行しつつスタッフのコントロールが出来るよう、マニュアルや管理ツールづくりを行う。同社によれば、業務に余裕がある時期こそ、このようなしくみづくりに時間を割き、日々、改善に取り組んでいるという。この考え方には学ぶところが多い。
  • ヒューマン(各人の能力・個性最大化の工夫)
    • 「今できることではなく、個々の成長に期待をかける」:障がい者の採用や配置においては、「今できることは何か」に焦点があたりがちであるが、同社においては、あくまでも、入社後の個々の成長を期待し続け、育成していくという風土がある。たとえばその一例として表彰制度があげられる。チームや個々の成果によって、半年に一度全社表彰される機会がある。それにより、本人の仕事の達成感、自信を高め、さらなる成長を促進していく。またオフィスには、毎月の様々な努力や功績をたたえるポスターも多く壁に掲示されており、社員が高いモチベーションをもって業務を遂行している様子が容易に想像された。
    • 適切な役割分担:
      • 採用後、配属先とのミスマッチが最小限になるような仕組みが施されている。まず同社では入社して、すぐに配属先が決まることはない。入社後3か月は本人の能力や適性の確認及び様々な仕事を知ってもらうことを目的に人事に配属され、応援派遣という形で、各部署の業務を体験する。その過程を経て、より本人の適性を見極め、配属が決定される。
      • また、配属に際しては、この障がい部位にはこの仕事といった固定観念にとらわれず、一人一人の能力や適性、育成を鑑みて行っている。例えば、上肢に重度の障がいがあっても、事務未経験であっても、それだけでPC操作はできないとは考えない。まさに「障がい者個人の特性を生かした」業務への配置、運営がなされているといえる。
    • 精神障がい者の活用:
      • 一般に「精神障がい者の雇用」と聞くと、「どのように仕事を任せればよいのか」と不安に思う向きも多いかと思うが、同社では、「精神障がい者の知的レベルは高いケースが多い」と言い切り、「むしろ大いに活躍してもらうべき」と考えている。精神障がいのある人には、前職などにおいて豊富な業務経験を積んでいる人も多く、「無理をさせすぎない」配慮など、働き方のサポートをすることにより、高い成果をあげられると考えているのだ。同社では実に全社員の15%を占める人数を雇用している。

・組織運営における成果
このような組織運営を通じ、2005年には障がいのあるメンバーから管理職が誕生。働く社員の仕事へのモチベーションも高く、定着率は入社半年後で100%、1年後96%、以降90%以上となっている。

障がい者の人材育成や、離職率に悩む企業の多い中、これは分離アプローチのメリットが最大限に生かされた成果ではないだろうか。そのメリットとはすなわち、健常者の数が最低限に抑えられていることにより、「仲間に障がいがあり違いがあるのが当たり前」というダイバーシティ理解が前提として存在し、その結果、障がいのある社員たちは、少数派としてのストレスに悩まされることなく、安心して働くことができるという点である。

<特例子会社の将来について>

今回紹介したように特例子会社を活用することにはメリットがある一方で、障がい者である社員が安定、安心して働ける環境への配慮をまずは大事にする性質上、短期的な収益を求めることのが難しいことを課題に感じている企業は多い。では将来的に、特例子会社は本体からの「分離」アプローチではなく、「統合」アプローチに移行する時が来るのだろうか?
PFCは、障がい者を受け入れる側の環境が整うことで「統合」を目指すことも可能と考える。特例子会社自体がさらに付加価値の高い業務を請け負うこと等を通じて収益を高めていくことも可能であり、分離していることのメリットを活用するために両方の可能性を模索していくことが求められる。

すでに世間で取りざたされているように、日本の人口減という背景もあり、昨今では社員の多様性の重要性が謳われている。多くの場合は女性活躍推進を切り口として、受け入れ側の理解が進んでいる。多様性理解、マイノリティ活躍推進が真に進んだ時こそ、障がい者が自由に職場や仕事を選べる時が来るのかもしれない。

<取材後記>
同社でお話を伺った際に驚いたことの一つが、精神や免疫も含め、障がい情報がオープンになっていることだ。新たに配属されたメンバーに対し「あなたの障害は何?」と聞くことも普通にある、というのだ。我々の常識からみると、一見、直接的過ぎるコミュニケーションだが、きちんと確認をしないと、障がいの性質上、長時間労働や生活のリズムが崩れることで体調を崩してしまう、などということが日常的に起こってしまうからだ。お互いの違いを当初から想定し、そこに配慮することが当然となっている。それゆえに、互いが助け合いながら成果を出すための様々な知恵や工夫が生まれている。

これこそが、まさに今、多くの企業が求めている「多様性推進」「効率化」「主体性発揮」を考える上でのヒントとなりうる、同社の貴重なナレッジであり、財産であると考える。

健常者からは、「保護すべき対象」と見られがちな障がい者であるが、かれらの蓄えたこのナレッジやスキルが、今まさに社会に求められているのではないだろうか。(大西美穂)

注1)リクルートオフィスサポート HPより

注2)ベクトルプロセスヒューマンの図