【田村洋一】エグゼクティブコーチングの現場から〜「人にはそれぞれ役割があるということ」

tamura_2エグゼクティブコーチングの依頼があるケースは実に多様です。

さまざまな経営者、さまざまなリーダー、さまざまなビジネスマン、ビジネスウーマンがいます。皆それぞれ有能な人物ばかりですが、ときどき並外れて有能な人に出会うことがあります。才能、努力、天性の力、磨き上げられた力。

そのほとんどは無名の人たちです。ときおり業界内でよく知られた有名な経営者に出会うものの、それとて一般社会では無名です。無名のビジネスマンにこれだけ桁外れの逸材がごろごろいることに毎度ながら驚嘆しています。日本という国はこういう人たちのおかげで動いているのではないかと思うこともあります。

しかし非凡な経営者たちばかりが日本を動かしているというわけではありません。こういう人たちは、たまたま自分の才能や運に恵まれて自分の持ち場で力を発揮しているだけです。他にも縁の下の力持ちがたくさんいます。

エグゼクティブコーチングやマネジメントコンサルティングなどに全く縁のない世界に住む技術者や事務職や管理者などの中に、ときに舌を巻くような優れた人たちがいます。しかも彼らの多くは自分たちを優れているとすら認識していないことが多いのです。

以前コーチングした外資系グローバル金融機関の役員Aさんは、ずっと会社のコスト部門の専門職でした。現場が好きで、仲間が好きで、顧客が好きで、人のためになることが好きで、ただ好きなことをとことんやり抜き、何人かの優れた上司や先輩に巡り会い、彼らの技を盗み、ことあるごとに他人の優れた点から学び、勝手に自分の能力を上げてきた人でした。そして若い頃からチームを作るのが上手く、人の優れたところを見抜き、その人ができることをどんどん任せて強いチームを作って大きな成果を上げてきたのです。

皆がAさんのもとで働きたがった。そして何の野心もなかったのに40代で役員に抜擢されてしまいました。それでエグゼクティブコーチングを受けることになったのです。

経営の仕事は現場の仕事とは違う。しかし、なってしまったものは仕方ない。そこでもできることを手抜かりなくやることにした。現場を知り抜いている経営者は強い。しかし彼は自分を大した人材だとは思っていない。自分を客観視して、能力を持っていることは知っている。でもただそれだけのことです。

Aさんには今もって野心がありません。ただ経営者として良い会社を作り、一企業を超えた社会貢献につながるような良い仕事をしたいと思っているだけです。

野心や出世欲、大志や大望は、あってもいいのでしょうけれど、なくても構わないのではないでしょうか。

コーチングクライアントの中には、少数ながら、あからさまな野心家もいるにはいます。次は部長になる、次は支店長になる、次は営業本部長になる、事業部長になる、役員になる、社長になる、と目標を立てて達成していく人たちです。それはそれですがすがしくもあります。

出世欲があろうとなかろうと、誰しもたいがい壁にぶつかって挫折を体験しながら学習するものです。挫折から学んだ人ほど強く、内なる迫力を持っています。それは当初から恵まれていた天性の才能などとは次元を異にするものです。

人には与えられた役割があるという気がします。運不運や才能の大小を思うよりも、人にはそれぞれ持ち分があると考えたほうが平和でもあります。

根っからのガキ大将タイプはそのパーソナリティの中に天分を見いだせばいいし、引っ込み思案やおっかなびっくりは、それもそのパーソナリティの中に自分の天分を見いだせばいい。

私がエグゼクティブコーチングを通じてわずかな手助けをしているのは、スーパーマネージャーをスーパーマンにすることではなく、素晴らしいチームを創ることだと思います。素晴らしい組織を築くことです。組織やチームの中に光り輝く個人をつくることです。そのプロセスで人を変えようとはしません。人は変わるべくして変わるべきタイミングで変わっていくのですから、それをほんの少し手助けするだけです。

(プロフェッショナル・アソシエイト 田村洋一)