京丸園~障がい者とともに成長する会社

■「障がい者の戦力化・活躍推進による組織強化支援」について
これまで様々な企業の組織開発・人材開発の支援を行ってきたPFCの信念の一つに、「企業の持続的な成長には『人材の力を最大限に発揮する経営』が欠かせない」がある。そのために必要なものがダイバーシティの推進であり、女性や外国人といったマイノリティがさらに活躍できるよう、組織内の理解醸成や活躍推進の支援を行ってきた。2015年度からは、「障がい者の戦力化・活躍推進による組織強化」も領域に含め、コンサルティング支援やワークショップ実施の取り組みを進めている。
障がい者であろうと誰であろうと、分け隔てなく、活躍が期待される社会、そして実際に活躍が促進される社会に向けて、時代も動き出している。
「一億総活躍社会」という言葉も聞く。障がい者の活躍への支援もより促進されることだろう。

障がい者を「戦力化」し「活躍」を推進できている企業は、残念ながらまだ稀だ。多くの企業にとっては、障がい者の「雇用」すらハードルが高いようだ。厚生労働省が今年6月に公表したデータによると、障害者雇用促進法が「2.0%以上」と定める民間企業(従業員数56人以上)の障がい者の法定雇用率は1.82%だった。11年連続増で過去最高となったものの、それでもなお対象企業全体の達成率は44.7%に留まっている。
また、雇用率をクリアしている企業であっても、「渋々義務で取り組んでいる」あるいは「やむを得ず支払っている社会的コスト」といった意識の企業経営者や人事担当者は少なくないのが現状だ。

そのような中でも、単に法定雇用の義務を果たすのみならず、「障がいのある社員」がビジネスの現場で、「戦力」として大いに活躍し、大いに貢献している企業が存在している。「会社に障がい者がいることが、組織の成長にも繋がっている」という状況を創りだせているのだ。今後、多くの企業がそのような組織に変わっていくことを誘うために、様々な企業の具体的事例をご紹介して行こうと思う。

【企業事例: 京丸園株式会社】

■京丸園の概要
京丸園株式会社(以下、京丸園)は、水耕みつば・ねぎ、ちんげん菜、土耕トマトなどを主に育てている静岡県浜松市の生産農家である。一見するとどこにでもある農家だが、実は2007年に障害者関係功労者内閣総理大臣賞受賞を初めとして多くの賞を受賞している。そのため、障がい者雇用への取り組みの参考にしたいと多くの企業や同業者が遠くから視察に訪ねてくるのだ。
京丸園では1996年に初めて障がい者を雇用したことをきっかけに、障がい者がもつ可能性に目を向けるようになった。そして、障がい者の特性を理解し活用することで成長を続け、今では従業員66名の内3割以上が障がい者にも関わらず、売上が当初の4倍以上の大所帯になっている。
今回の取材では福祉のための農園ではなく、「農業経営における幸せの追求」を理念に掲げる京丸園がどのような工夫をしているのか、鈴木社長から伺った話を紹介していく。

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■障がい者に任せる仕事をどのように開発しているのか。
仕事を開発していく方法には大きく3つのパターンがあります。

1.作業の結果にこだわり、プロセスにはこだわらない
京丸園が行っている「姫ねぎ」の水耕栽培*において、苗を定植する作業は手先の器用な人でないと出来ないということで、以前は障がい者に任せていませんでした。しかしある時、見学に来た特別支援学校の方が、「下敷きのような硬い板を使えばもっと簡単にできるのではないか。」と提案して下さり、実際に試してみたところ簡単に定植が出来てしまったんです。
これまで「自分と同じように作業できる人じゃないとダメだ!」と思うと任せることが出来なかったのですが、逆にあまり経験がない人が「定植する」という作業にだけ目をむけ、障がい者ができることから発想することで、全く違うやりかたでも同じ成果が得られる方法があることを教えられたのです。
障がい者にこの作業をお願いできるようになったことで、自分は会社全体のことについて考えられる時間が増え、今の会社の成長に繋がっています。

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2.障がい者が道具に合わせるのではなく、障がい者の特性に道具を合わせる
新たに「姫ちんげん」という品種の水耕栽培を開始する際「姫ねぎ」と同じように、障がいをもつ社員に定植を任せられないかと考えました。しかし、品種によってそれぞれ形状が異なるために全く同じというわけにはいかず、知的障がい者の方に違いを教えても理解してもらうことが出来ませんでした。
ここで考えたのが、作業する道具と工程を、障がいをもつ方でも理解出来るレベルに工夫することでした。そして思考錯誤した結果、入れ物の形状を加工し、苗を穴めがけて真上から落とすだけで定植作業が完了できるようにして、障がいを持つ方にもやるべきことを理解してもらい、仕事を任せることができるようになったのです。

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3.日々の観察の中から障がい者の特性を見いだし活かす
1年間の中では仕事を任せられることがない時期もあり、その間、仕方ないので精神障がい者の方にはハウスの中を掃除してもらうようにお願いしました。すると、任せてしばらく経ったある日のことハウスの管理を担当している社員から「掃除をしてくれているおかげで農薬を使わずに済むようになってるんです!」と、驚きとともに報告があったのです。状況を確認してみると、精神障がいを持つ方はゆっくりとしか作業できない分、結果として丁寧に虫を駆除してくれているので農薬を撒く必要がなくなっていることが分かりました。それなら、その特性を活かさない手はないと思い「虫トレーラー」と名付けた専用の掃除機を準備して、その仕事を担当してもらうことにしたのです。その結果、その特性が存分に発揮され、今では無農薬で野菜を栽培できるまでになったのです。障がいがあるからこそできる仕事があり、農薬の費用が浮き、売る時には無農薬野菜という付加価値で販売できる、という一石三鳥の状態に今ではなっています。

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障がい者と共に働く上で人事の面で工夫していることはあるか。
採用で面談する際には「本人に働きたいという意志があるか」「会社まで自力で通勤できるか」「他の人に危害を加えたりしないか」の3点を重視しています。特に重要なのは働く意志です。長く続けてもらうためには親や施設などから言われたからではなく、「自分の気持ちであるか」の確認が重要になってきます。また、給与については能力と給与の一致をこころがけており、本人のやる気があっても能力的に作業を求めることが難しい場合には、本人と話し合った上で最低賃金の除外申請を行うこともあります。最低賃金を守るべきだという考え方もありますが、これまでに給与があがることで健常者と同じ能力が求められるという精神的なプレッシャーがかかるという理由から、給与をあげてほしくないという障がい者も中にはいました。そのため、長く働いてもらうためにも能力と給与を一致させる原則を重視しています。
また入社後、障がい者の方はまず深耕部に配属します。そして、そこで深耕部のスタッフ2名が本人の希望に基づいて、どのような仕事なら特性を発揮できるかを考えて仕事を開発し、実際に仕事の訓練を受けてもらい現場に派遣するという仕組みをとっています。開発にあたっては、やはり障がい者の特性を、いかに作業工程や道具に合わせるかというのが重要になります。

障がい者のもつ能力を発揮してもらうために工夫(配慮)していることはあるか。
私は障がいを持っている方でも仕事をする上で、少しでも良い成果を出し、会社に貢献したいという気持ちは変わらないと考えています。そのため、その気持ちをサポートする工夫を色々としています。一例として、知的障がい者には中での作業をお願いし、精神障がい者には屋外の作業をお願いするという仕事の任せ方の工夫があります。任せる仕事を変えているのには、下記のような理由があるのです。
・知的障がいの社員は一人で作業をしていると気が散って効率が落ちる傾向があります。そのため、健常者と並んで同じ作業をしてもらうことで、出来る限り集中して同じペースで作業が出来る環境を用意するのです。
・精神障がいの社員は、逆に人がいることで周囲が気になり集中力が低下します。そのため、ハウスの広い空間で人目を気にしなくてよい環境を用意することで、集中して作業できるようしています。
また、最近では夏場ビニールハウスの中が熱くて仕事ができないという障がい者の要望に応え、夏場に屋内で作業出来る作業所を併設しました。ただ、これも建てるにあたっては事前にどうすれば作業を効率よくできるかを検討し、建てた方が結果として高いパフォーマンスを発揮してくれることを見込んでの決断でした。実際、屋内で作業を始めてからは、今まで8時間かかっていた作業が4時間で終わるようになり、空いた4時間で別の仕事をお願い出来るようになったため、以前より生産性が向上しています。

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■取材後記
鈴木社長の話をお伺いする中で、最初の頃は先生にも、親にも、本人にも「仕事をください」と頭を下げられたが、お願い出来る仕事がないので断るしかない状況だったと話をされていました。しかし、なんとかその現状を変えたいという想いから、あきらめることなく色々な方法の模索を続けられたそうです。その結果として、今では、鈴木社長が障がい者に対して必要な仕事をお願いし、障がい者本人が胸を張って仕事が出来る状態を実現出来たのです。
今回、私は鈴木社長のあきらめない意志の強さに感動しました。簡単ではないけれども、あきらめず模索し続ける気持ちを自分自身も続けたいと、気持ちを新たにしました。

(障がい者の活躍推進チーム)