ハイディラオ〜農村戸籍者に「機会の平等」を与える企業活動

中国で話題の火鍋チェーン店、海底捞(ハイディラオ)。高いサービス水準で一躍有名になり、直近3年で店舗数は約60から120に急増。東京、池袋にも今年9月に日本進出一号店がオープンしました。これほどまでの急成長を可能にした組織開発と人材開発の秘密については、別の機会で詳しく分析したいと思いますが、今回はハイディラオの企業活動が社会に与える効果について書いてみたいと思います。

都市に受け皿がなかった農村戸籍者を採用
今では豊かなイメージが強い中国ですが、農村部の貧困は深刻です。中国では原則として、戸籍があるところにしか居住が認められていません。たとえば農村に戸籍がある人が、都市に居住している人と同様に仕事を見つけ、移住して働くということが基本的にはできません。都市を訪問することはできても、そこで働いたり、勉強のために家を借りて住むことができないのです。一方で、農村出身者を受け入れる短期・日雇いの仕事はあります。こうした仕事を目当てに都市へ出て、郷里に現金を送る出稼ぎ労働者が数億人居ると言われています。都市部に定住し、安定した仕事務めができる都市戸籍者と、出稼ぎ労働しか得られない農村戸籍者の間には、はっきりとした格差があります。しかし、ハイディラオで働く従業員は99%が農村戸籍者だと言われています。

「自分の手で運命を変えよう」が徹底した理念
これにはいくつか秘密があります。一つは、理念「自分の手で運命を変えよう(双手改变命运)」。組織の上から下まで徹底して貫かれた理念です。創業者自身が、一介の溶接工から中国の各都市に120店を展開し、いまや2万人を抱える巨大チェーンに成長しているのですから、説得力がない訳がありません。この理念を体現している制度のひとつが、従業員一人ひとりについた予算です。入社一年目の新人も含めて全員が、個人の采配で自由に使うことができます。自分の判断で野菜の無料サービスやお店で提供していないものを買い出しに行くなど、従業員のほとんどが店頭でのプラスアルファのサービスのために使っています。ほんの小さな元手でも、自分で何かができるというのが、「運命ですらも!」という個々の自信につながっているのでしょう。

また、手厚い福利厚生もハイディラオの特徴の一つです。家族を離れて働きに来ている労働者にとって、寮が完備されていることは最も有難いことです。店舗から20分以内の場所に寮があり、インターネット接続、クーラー、シャワー、清掃員付と物件自体もかなりの高水準です。さらに誕生日会の開催や、冬の日の生姜湯など「社員は家族(員工当成家里人)」の理念がいたるところで発揮されています。更には、「父母手当」として郷里の家族に毎月一定額が支給される制度まであります。これらは全て、従業員が満足することによって、顧客へ最高のサービスを提供することが出来るという考えから出発しています。

農村戸籍者に「機会の平等」を与える企業活動
ハイディラオは、こうして出稼ぎ労働者が安定して都市で働き続けられる仕組みを作りました。従業員採用は常にオープンで、中卒から応募できるのも、農村戸籍者にとってチャンスです。中卒者、大卒、中途採用者など、すべての人が平等に、最も低い基本職レベルから働き始めます。もちろん、一企業である限り、永遠に人を受け入れ続けることはできません。従業員にはスマートフォンを通じた研修受講と昇級試験が課せられ、下位4%が自動的に淘汰されていくようになっています。また店長などの役職に就くには、必ず投票によって選出されなければならず、不当選の場合は再び基本職からやり直しとなります。

このような制度の元でも、基準が明快で、機会が公平であるからこそ、「自分の手で運命を変える」ことを目指して従業員たちは熱心に学びます。また、独立起業した元従業員とも、ハイディラオは積極的に取引をし、更なる成長を支えています。単なる出稼ぎ労働者が、家族を連れていつの日か上海に家を持つ。ハイディラオの企業活動は、誰もがこんな夢を叶えうる「機会の平等」の実現に貢献していると言えるでしょう。