【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】第45 回ハイパフォーマンス・チームを体現するチーム

なでしこジャパンが、カナダで開かれているW杯で躍進を続けている。
この稿を書いている時点(6月30日)で、無敗でベスト4にまで上り詰め、あとは準決勝・決勝と2試合を残すのみだ。私の周りの友人も、「決勝まで進んだらカナダまで見に行く」と言う人がちらほら現れ始めた。ただ、“躍進”と言うのは失礼かもしれない、何しろ彼女達は、前回4年前のW杯の王者(女王者)なのだから。

前回のW杯を制した直後から、私は、研修などで「ハイパフォーマンス・チーム(HPT)」の概念を説明するのに、なでしこジャパンを例に取り上げてきた。こんなすごいチームはそうそうあるものではないと思ってきた。
私自身は、概念を説明するのに、具体的で身近な例があった方が分かり易いと思って話しているのだが、よくよく考えてみると、サッカーファン以外の人にとってはあまり馴染みがなく、分かり易い例になっていないかもしれないので、せっかくのこの機会に、最近の様子を整理して共有しておこうと思う。

チームは、人が集まっただけでできるものではない。人が集まっただけなら、グループ(集団)としか呼ばない。チームになるには、ベクトル・プロセス・ヒューマンという3つの要素が必要だ。
ベクトルとは、目標や方針といった、チームに方向性をもたらすものだ。
プロセスとは、物事の進め方や役割分担など、チームの方法に関する共通理解だ。
ヒューマンとは、チームが成果を出すのに必要な能力を持った人がきちんといるかどうかだ。

ただ、さらに単なるチームを超えて、ハイパフォーマンス・チームにまで進化すると、同じベクトル・プロセス・ヒューマンでも、その意味合いが大きく異なるのだ。なでしこジャパンのチームを題材に、どのように異なるかを説明しよう。

①なでしこのベクトル:HPTになると、単なる業績目標や業務方針だけを使って、チームに方向性をもたらそうとしない。「ビジョン(将来像)」や「バリューズ(価値観)」でチームに方向感と一体感が生まれる。
なでしこは、「世界のなでしこになる」という明確なビジョンを掲げている。そのビジョンに基づき、「サッカーを女子のメジャースポーツにする」「世界のトップクラスになる」「世界基準の選手を育成する」という3つの目標を展開している。
さらに、この目標を実現するための戦術として、佐々木監督は、「攻撃も、守備も、緻密なサッカー」を目指している。自分たちの長所を生かし、攻守の切り替えの早いサッカーを、今大会でも我々の目の前で見せてくれている。
そして、何と言っても、なでしこにはチームで共有しているバリューズ(価値観)がある。「なでしこらしい選手になろう」「なでしこらしい選手を育てよう」というキーワードで表現されている。「なでしこらしい」とは、ひたむきで、心が強く、明るく、礼儀正しいこと。前回のW杯でも、点を取られては取り返し、最後にPK戦で勝利したひたむきさ。また、勝つためには綺麗ごとだけではすまない世界でありながら、W杯の優勝チームとして初めてフェアプレー賞を受賞した礼儀正しさ。バリューズを実際に体現しているプレイに惹かれるのは、私だけではないだろう。
佐々木監督は、なでしこのサッカーを最近『ソーシャル・フットボール』と表現するようだ。「女子代表にはプロもいるが、アマチュアもいて、業務終了後にナイターで練習している。良い環境とはいえない中でも、大好きなサッカーができる喜びと、サポートしてくれる人たちへの感謝の気持ちを忘れず、多くの人に感動を伝えることを目的にプレイしている。こうした練習を積み重ねて、W杯やオリンピックの試合前には笑顔で円陣をくめるようになった。チーム全員が意見を出し合い、ビジョンを共有して闘うソーシャル・フットボールが実現しつつある。」と語っていた。
既に単なる一スポーツのチームどころではない、社会に影響を与える、社会にとって重要な存在ということだ。そんな意識のチームが強くならないはずはない。
ソーシャル・フットボールの実現の鍵は、ビジョンとバリューズだ。

②なでしこのプロセス:HPTになると、物事の進め方や役割分担などを明確に決め、チームの方法に関する共通理解をきちんと醸成することだけでよしとしない。チームに『秩序』は必要だが、さらにHPTたりうるには『創造』も必要だからだ。遊びをもたせ、対話を促進し、チーム内はもとより、様々な異なる価値観の人達とも「創造的な交流」が生まれるような、様々な工夫を施す。
佐々木監督は、このW杯に臨む前に、「規則や命令で選手をガチガチに管理するのではなく、のびのびと自分らしい感性を表現させたほうが、サッカーはうまくいく」と語っていた。そして、サッカーにおける最高の戦術とは、選手が「自分らしさに自信をもつことだ」とまで言っていた。「自信を持った選手達が対話し、さらに互いのよさを引き出し合うことができるようなチーム作りを目指してきた」とも。
そもそも、なでしこジャパンは、平均身長と平均体重が、世界一小さなチームである。身体の小さなチームが世界の大きなチームと闘うには、連携が不可欠になる。
佐々木監督が最近語っていたことで印象的だったコメントに次のようなものがあるので紹介したい。「サッカーは足で行う競技なので手を使う競技より上達に時間がかかる。忍耐力が必要な競技であり、日本女性には向いている。日本人の忍耐力は、欧米の選手には絶対に負けない。そして何より、協調性が必要とされることも日本人向きだ」

③なでしこのヒューマン:HPTになると、「個人の能力」だけに焦点を当てるのではなく、チーム内の「関係性」に意識が払われ、それが向上するようなエピソードで溢れている。つまり、必要な能力を持った人がきちんといることに加え、集まった人達の「関係性」も、チームが成果を出すのに必要なものになっている。
通常、チームというものは形成期→混乱期→統一期→機能期という変遷を遂げる。特に、HPTになるためには、混乱期の葛藤が大切と言われる。この時期を、トラブルを避けるために、『事なかれ主義』で過ごしてしまうと、逆境などへの対応が難しいものになる。
なでしこジャパンは、「誰一人欠けてはならない」と全員が思うほど、絆の深いチームになっているようだ。そして、逆境になればなるほどその絆は深まる。それが垣間見られるエピソードを紹介しよう。
連覇に向けた開幕戦となったスイス女子代表戦で、相手GKと交錯したFWの安藤選手が左足ひ骨を骨折してチームから離脱することになった。豊富な運動量を誇る安藤選手の離脱は、なでしこジャパンにとって大打撃だった。
その後の試合もチームは僅差で勝ち上がっていくが、先日、FIFA(国際サッカー連盟)のサイトを見ていたら、エクアドル戦終了直後に、なでしこジャパンのベンチの選手たちが白熊のぬいぐるみを持っている様子の写真が掲載されていた。
実はこのぬいぐるみには、骨折し戦線離脱を強いられた安藤梢のユニフォームが着せられている。なでしこジャパンは安藤の背番号が入ったユニフォームを小さな白熊に着せ、ベンチにこのぬいぐるみを携えともに戦っていたのだ。そんななでしこたちの素敵な関係性を、FIFAが世界に紹介した。
なでしこジャパンの『チームワーク』は、世界から認められている。W杯連覇に向けて残り2試合。何とも楽しみだ。