目的ではなくビジョンで人を動かす~メンバーの誰もが「最高のチーム」と口をそろえるチームはどうやって作られたのか

「部下にはレアルに行けると説け!」より

「部下にはレアルに行けると説け!」より

チームメンバーの誰もが「最高のチーム」だったと口を揃える。解散する最後のミーティングでは全員が涙し別れを惜しんだ。そしてそのチームは「最強のチーム」でもあった。客観的なデータからもその強さは示されている※。にもかかわらず、最後の最後に結果が伴わなかったがゆえに、世間からは過小評価されているチームがあります。

2014年のサッカーW杯を戦い抜いたザッケローニジャパンです。

松村:今日は、リーダーシップ、コミュニケーション、チームの3つの観点からザッケローニ監督のチーム作りを紐解くことによって「真に強いチームを作る為に必要な要素」や「強いチームを作る為のリーダーシップのあり方」等について考えていきたいと思います。まず矢野さんが、ザッケローニジャパンを題材にこのようなビジネスパーソン向けの本を書こうと思った理由を教えていただけますか?

矢野:W杯で敗退した翌日、チームの皆が「完成度の高い最高のチームだった」ことを実感しつつ、涙を流しながらチームは解散しました。いまだかつて、最後に皆で泣いて抱き合う日本代表チームはなかったそうです。もちろん最高のチームだからといって結果が出なくていいということではない。しかし、結果がついて来なかったというだけでこのチームの素晴らしさを否定できるわけでもない。また、負けたからといってそれまでのことが無かったことであるかのようにうやむやにされるのは嫌だ。「世界を驚かそう」とした1つのプロジェクトが終わったわけで、企業で通常行われるように総括をきちんと行いたい。そして、まえがきに書きましたが「もし企業で働くビジネスパーソンの方々が、自分が加わっているチームプロジェクトをより良く進められるヒントを一つでも得てくれるのなら――ザッケローニ監督が作った日本代表の存在は、より意味深いものになる」。そういった様々な思いから、この本を書きました。

松村:ザッケローニジャパンの中で起きていたことを整理することで、組織作りのエッセンスが抽出できたり、組織作りに悩んでいる人々にご自身の経験が活かせるという思いがあったのですね。

1. リーダーシップ〜半端ない情熱でチームを牽引
松村:まず、そもそもリーダーシップとはなんぞやということですが、私が考えるリーダーシップの定義は、「自分の持っている何らかのエネルギーで周りに影響をあたえ、周りがついてくる」ということなんです。従ってリーダーシップの「スタイル」は様々で、リーダーによってこの「何らかのエネルギー」も異なる訳ですが、ザッケローニ監督のスタイル、もしくは彼の持つエネルギーはどのようなものだったと考えますか?

矢野:ザッケローニ監督はいつも自然体で、誰とでも分け隔てなく話すタイプです。それでいて、持っている情熱がとにかく半端ないです。「世界を驚かそう」という日本代表チームの目標を一番信じていたのがザッケローニ監督だったし、そこにかけるエネルギーは、他の人とは一線を画していました。強い思いと情熱を持っていたから、周りを引っ張って行くことができたし、周りも付いていったのだと思います。

松村:外から見ていて、ザッケローニ監督は、長嶋茂雄のような「人を惹きつける情熱」」を持つと同時に、野村克也のような「緻密さ」を併せ持つようなリーダーだと感じました。例えば、これまでの日本代表ではやっていなかった、スローインをパターン分けして、どういうときはどうスローインをするのかということまで緻密に練習したと聞きました。

矢野:そうですね。いつも「ディテールにこだわる」と言っていました。彼自身がプロの選手ではなかったので、錚々たるメンバーを指導するときに、きちんとした理論の裏付けや緻密な論理を持とうとしたのだと思います。

松村:「ディテールにこだわる」といっても、監督がこだわるだけでは意味がなく、チーム全体が同じレベル感で同じように理解している必要があると思うのですが、どのように伝えていたのでしょうか?

矢野:「自分たちのサッカー」を浸透させるために、例えば様々なミーティングを使い分けていました。全体ミーティング、ユニットミーティング、パートミーティング、個別ミーティングなどを通じて、対話で理解を醸成していく。そして実践を行い、またミーティングをやって、、、というように、トライ&エラーで4年間対話を積み重ねてきたと思います。

部下の自信をさらに伸ばす起用法
松村:選手だけではなくスタッフとの対話も相当大切にしていたそうですね。

矢野:日本人スタッフが驚いていたのは、ザッケローニ監督が食事の際に、用具係や広報担当者などが座るテーブルに入って行って一緒にお茶を飲んだり、英語で直接コミュニケーションしたりなどしていたことです。今までの監督があまりやっていなかったことで、スタッフのモチベーション向上にもつながっていたと思います。

松村:育成についても話を聞かせてください。ザッケローニ監督の選手の育成方法で興味深い点はありましたか?

矢野:ザッケローニ監督は欧州のクラブチームで世界の一流プレイヤーを間近に見てきていますから、「君は誰それみたいな特徴がある」とか言うのですが、その言い方が選手に響いていると感じました。それぞれの良いところを気づかせて、それを活かすと良いよと言ってくれる。長所を指摘するのです。

松村:この本のタイトルである「部下にはレアルに行けると説け」もそんな中で出てきた言葉なのでしょうか?

矢野:はい、実際にザッケローニ監督が言った言葉です。もちろん、リップサービスで言ったのではありません。世界最高のクラブであるレアルのすごさを体で知っているザッケローニ監督が、実際レアルに行った日本人選手はまだいないのに、その選手なら行けると本気で言った。なので、通訳する時も、この言葉の重みを強く感じました。選手を常によく観察し、長所をはっきり見抜くザッケローニ監督だからこそ言えたことだと思います。会社に置き換えてみても、上司にこのように言われたら本当に励みになりますよね。

松村:短所を何とかしろとは 言わずに、持てる能力を最大限引き出し、徹底して長所を伸ばし自信を持たせるという考え方なのですね。

矢野:特に代表にデビューさせる時には細心の注意を払い、「絶対に失敗させない」という哲学がありました。そこで失敗してしまうとbookevent、モチベーションも自信も失うし、ましてや代表に呼ばれなくなったら、大切な宝を未来永劫失う結果となるからです。なので、若手を使う際には周りをベテランで固めるなど絶対に行けるという準備ができた時に使っていました。デビュー戦で失敗した選手がいましたが、その選手の高い能力を確信して使い続け、今では代表の柱にまで成長しています。

2. コミュニケーション〜何でも聞きに行ける風土作り
松村:コミュニケーションと言えば、「聞く」「伝える」だと思いますが、その前にザッケローニ監督は「見る」から始まっています。他の監督とは比較にならないほどたくさんの数のJリーグの試合を見に行っているようですね。いったい何を見に行っていたのでしょうか。

矢野:代表選手を選ぶにあたって、自分の目で見て情報を集めていました。足を運ぶことで、「ちゃんと見ている」というメッセージが選手達に伝わる。そして、ピッチ上のプレイだけではなく、例えば、「自分がミスをしたときに自分のせいにするか相手のせいにしているか」「ミスをした時、そこから崩れないでやれるか」とかいったメンタルな面まで見て、評価していました。

松村:企業では、評価に関する不満の多くが、上司が部下を見ていないことに起因するものです。日産自動車のゴーンさんが、会議室に部長の写真を張り出して、担当役員にそれぞれの評価をひとりひとり聞いていくことがあった。役員が評価に必要な情報を持っていなかったり、そもそもその人のことを知らなかったりすると、激怒したと聞きます。この結果、役員は普段から注意して部下を見るようになり、部下も「見られている」という意識から成長が促されるようになった。

矢野:見た後、プレイについて「あの時、体の向きがずれたよね」みたいに指摘するのですが、ポイントをおさえてひとつかふたつだけ言う。それ以上言わない。

松村:たくさん指摘されるよりそれは効果的でしょうね。それから、ザッケローニ監督はオープンなコミュンケーションを心がけ、「風通しのいい風土」を作ることに留意していたと聞きますが、どのようにして風通しのいい風土作りを実現したのですか?

矢野:何でも監督に聞ける雰囲気作りは重視していました。もともとザッケローニ監督はオープンマインドな人で、分からないことがあれば誰にでも自ら聞きに行ったし、用具係とかにも歩み寄ってよく話を聞いていた。自らの行動で風土を体現していましたね。監督に聞きたいことがあれば何でも話してほしいとミーティングの中でも何回も言っていて、特に中心メンバーには強く言っていました。欧州で活躍する中心メンバー達は欧州でそうしているのでしょう、臆せず率先して監督に聞きに行きましたが、中心メンバーが聞きに行くようになると、周囲もそれが普通になり、風土になっていったのだと思います。

3 チームビルディング〜目標ではなくビジョンでチームの成長を促す
松村:チーム作りに欠かせない「ビジョン」について伺いたいのですが、多くの企業が「ビジョンが作れない」もしくは「作ったビジョンが浸透しない」のいずれかの問題で悩んでいます。ザッケローニジャパンでは「世界を驚かそう」という素晴らしいビジョンを掲げていた訳ですが、このビジョンがチームの中でどのように位置づけられていたかを教えてください。

矢野:日本サッカーが急激に伸びている時期でもあったし、このビジョンには、どうせやるなら今まで誰もやったことのないことをしようという思いがあったのだと思います。一方で、アジアカップ、東アジア選手権、コンフェデレーションズカップ、そしてW杯でも「ベスト4」といった具体的な目標は掲げなかった。チーム内で共有されていたのは「自分達のサッカー」というものの具体的な姿と、「4年後を見据えたチームを作っていこう」というメッセージでした。W杯の時も、「行けるだけ上に行こう」とだけ言っていました。目標を公言するより、「世界を驚かす」という言葉でチームの成長を促していたと思います。もちろん、参加するからには優勝が目標でしょうという意識は皆の中にはありましたけれども。

松村:ビジョンを掲げて目標は掲げないというのは、一般の企業で起きていることと逆で、興味深いですね。世の中には、数字で表せる明確な目標は掲げるが、エネルギーの湧くようなビジョンがないという組織が少なくないですから。

「〇〇人だから」がなくなるのが真のダイバーシティ
松村:あと、チームビルディングについてはどうでしょうか?PFCでは「グループとチームの違い」を研修で説明するのですが、単に人が集まった状態であるのがグループで、メンバーが相乗効果を発揮して足し算ではなくかけ算の成果が出るのがチームだというのが定義です。そして「チーム」を作ろうとする時は、単なる仲良しグループではなく、人間関係を強固にすることが欠かせません。このことを考える時、私がよく思い出すのが「アブダビの夜」です。2006年、W杯をかけたアジア予選の最中、チーム内に亀裂が入った時、選手たちが喧々囂々、本音で議論を戦わせ、その結果、チームが再生したことがありました。今回のザッケローニジャパンではそういった場面はありましたか?

矢野:もちろん「議論」はありましたが、建設的なもので、全員がチームのことを考えて、良くするためにどうしたらいいかという話し合いは活発に行われていました。ただし、コーチ陣にはイタリア人が多く、選手の中にも海外組と国内組がいるという複雑なチーム構成なので、「ダイバーシティ」を前提としたコミュニケーションの仕方はポイントだったし、自分もその促進に留意しました。

松村:ザッケローニ監督はそのダイバーシティをどうまとめたのでしょうか?

矢野:互いの文化の深いところで理解し合うことを重視していました。例えば、日本人とイタリア人のフィジカルコーチには一緒に視察に行かせて、二人のコミュニケーションが増えるようにしたり、イタリア人スタッフには日本の文化を理解するようにと言ってしていました。ザッケローニ監督自身も、日本人や日本文化への理解を深めようとしていました。

松村:ダイバーシティが真に融合したチームでは、お互い個人として認識し合っています。組織でなにか問題があったときに「○○人だから」という言葉が出る間はダメだと言われていますね。「違い」は人種や国籍によるものではなく、個人的な要因であると理解されるようになるのが理想です。
最後に、これは皆さんが最も聞きたいことではないかと思うのですが、ザッケローニジャパンは最高で最強のチームだったにもかかわらず、なぜW杯では勝てなかったのでしょうか?

矢野:W杯で勝つことはそんなに簡単じゃないというのが僕の考えです。世界中の強豪が、国の威信をかけて集まる訳ですから、それだけの力をつけなければなりません。4年に1度の大会ですから、そのときの選手達のコンディションにも大きく影響されます。結果は必ずついてくるわけではありませんね。

松村:なるほど。私にはザッケローニ監督は、最高のリーダーの一人として知られる「アーネスト・シャクルトン」に重なって見えます。彼は南極を目指した冒険家でしたが、結局一度も南極に到達することはできず、結果という意味では何も残せていません。しかし、航海途上で氷塊に阻まれ座礁したにも関わらず、約1年8か月に渉る漂流の末、一人残らず生還させたことで知られています。何より乗組員たちが皆「もう一度人生があってもシャクルトンと一緒に旅したい」と言ったそうです。今日はいろいろなお話をお聞かせ頂き有り難うございました。
矢野さんは、将来、是非、日本の“モウリーニョ”(通訳から世界一の監督になった)になって下さい!

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