【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】第41回ザッケローニ監督と南極探検家シャクルトン

matsu_seminarつい先日、ザッケローニ前サッカー日本代表監督の通訳を4年間務められた矢野大輔さんと、対談イベントをさせていただいた。
年初に出た矢野さんの2冊目の著書「部下にはレアルに行けると説け!」の中で、対談をさせていただいているのがきっかけで、今度はリアルに対談をしようということになったのだ。
矢野さんは今、昨年出した「通訳日記」という本が8万部を超えるベストセラーになっていて、各方面から引っ張りだこの売れっ子なので、本の中での対談に加え、リアル対談の機会を忙しい中いただけたのはラッキーだったし、私にとっては本当に至福のときだった。

その内容は、今月出るPFC News Letter(季刊発行)で詳しくまとめてあるので、そちらに譲るとし、是非読んでいただきたい。(News Letterをご希望のかたは、pfc@peoplefocus.co.jpまでメールにてお問い合わせください。)

矢野さんとの対談を通じて、あらためて、ザッケローニ監督が率いた日本代表が2014年のW杯で結果を出せなかったことが、残念で仕方ない気持ちでいっぱいになった。
いや、W杯で結果を出せなかったことより、W杯で“のみ”結果を出せなかったことで、何だかあらゆることを否定するかのような、“不当に低い評価”を受けてしまっていることが残念なのだ。
実は、ザッケローニ監督率いる日本代表は、過去の日本代表の歴史の中で最高勝率を誇る。得点率も歴代の監督の数値を上回り、攻撃力の強化という長年の課題にも成果を導いていた。日本代表選手たちは、誰もが「最強のチームだった」と口を揃え、そして、「4年間やってきたことは間違いなかったし、最高の時間を過ごした、悔いはない」と言う。ザッケローニ監督も、「もう一度W杯を戦うとしても、同じプロセスを踏むし、全く同じメンバーを選ぶ」と言っている。ただ、集大成であるはずのW杯では、日本代表は一勝もできなかったという結果に終わったのだ。

対談の終わりに私は、アーネスト・シャクルトンという20世紀初頭の南極探検家に言及した。矢野さんから、ザッケローニ監督が作り上げた日本代表チームの話を聞くにつれ、ザッケローニとシャクルトンとが被って見えてきたからだ。
シャクルトンについては、我々PFCではかねてより彼のリーダーシップに着目し、リーダー育成の現場では、しばしば議論の対象にしてきた。とりわけ、結果を出すことがリーダーシップとどう関係あるのかについて、興味深い観点を提供してくれている。
彼は、南極探検家でありながら、「南極到達」という意味では何の結果も残せていない。Wikipediaによれば、3回南極に挑むが(途中で急逝した最後の挑戦を含むと4回)、悉く失敗している。(以下、Wikipediaからの引用)
最初の挑戦は1902年。スコットらと共に南極点到達を目指すが、残り733kmの地点で断念を余儀なくされた。病気によって犬ゾリの引き犬を全て失う、シャクルトン自身も壊血病に倒れるなど、惨憺たる結果に終わっている。
1909年、自ら南極探検隊を組織して再挑戦した。ポニーが引くソリで南極点到達を目指すが、食料の欠乏のため、南極点まであと180kmまで迫った地点(南緯88度23分)で引き返している。最後は飢餓で全滅寸前の危機に陥りながらも無事に帰還した。
ロアール・アムンセンが1911年に南極点到達を果したことから、シャクルトンは目標を南極大陸横断に切り替える。
1914年、エンデュアランス号にて南極に向け出航した。南極大陸まで320kmの点で氷塊に阻まれ、身動きが取れなくなる。10ヶ月ほど氷塊に囲まれたまま漂流を続けたが、氷の圧迫でエンデュアランス号が崩壊を始めたため、船を放棄し、徒歩にて(そして、氷山が溶けてからはボートにて)氷洋上を踏破し、約500km先のエレファント島に上陸した。そこから分遣隊を率いて救命ボートで航海を行い、約1300km先のサウスジョージア島に到達。登山道具も満足に無い状態でさらに山脈を越えて漁業基地に到達し救助を求めた。その後貸与された救助船の損傷や接岸失敗などの困難に見舞われたものの、ついに全隊員の救出に成功した。約1年8ヶ月にわたる漂流にも関わらず、27名の隊員と共に、1人も欠けることなく生還を果している。

シャクルトンは、当初の探検目的に沿った結果を残すことはできなかった。しかし、絶望的な状況下において隊員の希望を失わせず、かつ、冷静な判断と決断力で奇跡ともいえる全員帰還を成功させたことで、優れたリーダーとして今なお称えられている存在となっている。
ちなみに、シャクルトンが南極探検隊員を募集した新聞広告が有名だ。

MEN WANTED for Hazardous Journey.
Small wages, bitter cold, long months of complete darkness, constant danger, safe return doubtful.
Honor and recognition in case of success. Ernest Shackleton
— 「求む男子。至難の旅。
僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証無し。
成功の暁には名誉と賞賛を得る。アーネスト・シャクルトン」

まるでサッカー日本代表のようだと思ったのは私だけだろうか。
ザッケローニ監督も、自らメンバーを集め、「世界を驚かせよう」といってひとりひとりを奮い立たせ、チーム作りに心を砕いた。そして、選手たちは皆、W杯では負けたけれど、最高のチームだったと言う。
シャクルトンから今なお我々はリーダーシップを学んでいるように、ザッケローニジャパンからも、まだまだ学ばなければと思うのだ。