【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】第39回 社会のあたりまえをブラインドサッカーが描く~“ブラインドサッカー”から学ぶダイバーシティ~

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先週1週間(11月16日~24日)に渡って、東京でサッカーの世界大会が開かれていたのはご存知だろうか。“ブラインドサッカー”の世界選手権だ。

ブラインドサッカーというのは、視覚障害者の人達によるサッカー競技で、パラリンピックの公式種目にもなっている。

今回世界選手権が東京で開催されることで、私もその存在をはじめて知ったが、まずもって目が見えないでサッカーをやっている人がいること自体が信じられなかった。しかし、実際に見に行ってみて、プレイを目の当たりにしてみると、技術とスピードは想像をはるかに上回るもので驚愕した。

選手たちはびっくりするほど素早く的確にボールの到達点に先回りしてパスを受ける。ボールが足に吸い付くようなドリブルテクニックで敵を翻弄する。正確でスピードのあるシュートを放つ。こんな技を次々と見せつけられると正直、「見えないなんて冗談だろう」と言いたくもなった。

ブラインドサッカーを詳しく知るまでは、視覚障碍者“だけ”のスポーツだと私は思っていた。しかし、実は、チームは視覚障碍者4人と健常者2人の混成で構成される。ゴールキーパーと、コーラーと呼ばれる役割だけは、視覚健常者が担う。障碍者と健常者が普通に協力しあうということを、サッカーで描こうというのがブラインドサッカーの理念だ。サッカーが考える、そうあるべき社会を体現しているということだ。この理念を聞いて、いたく共感を抱いた。そしてサッカーはこんなにも先んじているのかと、企業のダイバーシティの取り組みに思いを馳せた。

今や多くの企業で、やれ外国人を増やそう、女性活躍推進を図ろうといった、「ダイバーシティ」の取り組みが花盛りだ。しかし、“同化”アプローチか “分離”アプローチがとられることが少なくない。簡単に言えば、“同化”アプローチとは、マイノリティ(少数派)がマジョリティ(多数派)のやり方に合わせろというもの、“分離”アプローチとは、マイノリティ(少数派)だけを隔離して別部署や別チームで働けというものだ。

一方で、真のダイバーシティに必要不可欠なのが“統合”アプローチだ。“統合”アプローチでは、異質なものを同質化することなく、異質なまま受け容れ、そして様々な多様性を持った人材がそれぞれの特長を活かしながら活躍できるようにするというものだ。

ブラインドサッカーは、まさに統合アプローチをとっていると言えよう。その理念を体現した、ブラインドサッカーならではのルールやプレイの特長を見てみよう。

・サイドラインはフェンス
ブラインドサッカーのコートは、フットサルのコートと同じ大きさだ。ただし、スローインがない。サイドライン上にはフェンスが設置されていて、ボールが外に出ることがないのだ。フェンスがあるお蔭で、視覚障碍者達もコートの大きさを体で把握できるのだ。フェンスを巧みに利用したプレイも続出していた。

・アイマスクの着用
フィールドプレイヤーの4人はアイマスクをして視覚を完全に遮断してプレイする。障碍の程度による不公平をなくすためのようだ。しかし、このルールによって、障碍の有る無しに関わらず、誰でも同じ条件でサッカーを楽しむことができるようにしているのではないかとも思う。

・音の鳴るボール
視覚を遮断するので、一般的なボールを使うとすぐにボールがどこにあるのかわからなくなる。そのため、ブラインドサッカーで使用するボールには特殊な鈴が埋め込まれていて、シャカシャカと音が鳴る。プレイヤーはその音を聞いてボールの行方を知ることができるのだ。

・「ボイ!」という掛け声
プレイヤーは、ボールの位置と同じく、自分以外のプレイヤーがどこにいるのかを知ることができない。フィールドを駆け回るブラインドサッカーでは、ボールを取りにいくプレイヤーは「ボイ!(スペイン語で「行くぞ!」の意味)」という掛け声を出さなくてはいけない。「ボイ!」を言わずにボールを取りにいくと、ノースピークというファウルになり、PKを与えてしまうことになる。

・ゴール裏にいる“コーラー”
ゴールの後ろには“コーラー”と呼ばれるガイド役が立つ。6人目のプレイヤーで、ゴールキーパーと同様、視覚健常者が担う。アイマスクをしたプレイヤーにゴールの位置を伝えるための、非常に重要なポジションだ。ゴールに迫ってくると「7メートル!45度!」というように、プレイヤーに現在位置を知らせる。

ところで、この世界選手権でブラインドサッカー日本代表は大健闘し、ベスト8まで進んだ。日本で開催されたことで、マスコミにも取り上げられ、そうして私も知ることとなった。だが、単にその存在を知ったということだけですますのではあまりにももったいない。ブラインドサッカー日本代表選手が語ることに耳を傾けてみると、彼らの凄さに脱帽すると同時に、サッカーや組織の未来にとっても重要な問題提起と示唆を与えてくれていることに気づいた。

まずは、「イメージ」の力だ。

ブラインドサッカーのプレイヤー達は、敵の息づかいで進行方向や自分との距離が分かるというのだ。優れた選手は、周囲の足音、息づかいなどの聴覚情報が瞬時に映像化され、思い浮かぶという。加えて、相手選手のクセ、例えば足で球を払うタイプか、体を寄せてくるタイプかといった情報を掛け合わせれば、相手の体すれすれを抜き去る華麗なるフェイントのできあがり、というわけだ。

「周囲の状況をイメージする能力」は、まさに通常のサッカープレイヤー達を大いに凌駕しているのではないだろうか。

続いて、「戦略方針徹底のためのコミュニケーション」だ。

ブラインドサッカーでは、メンバーによる事前の認識合わせは、想像を絶するほど詳細に行うというのだ。全く同じ絵を共有し、全員の認識が合っていないと、本番では機能しないという。視覚健常者達ならば、そこまで事前に合わせていなくとも、なんとなくやりながら調整・修正できてしまうことが、ブラインドサッカーでは難しい。事前のコミュニケーションによる認識合わせの精度が勝敗を決することになるのだ。

こうした「イメージ」の力も、「戦略方針徹底のためのコミュニケーション」も、通常のサッカーの質において極めて重要な要素だ。ならば、通常のサッカープレイヤー達も、実はサッカーの質を高めるために、通常のサッカーの練習から離れて、ブラインドサッカーを経験することが有用なトレーニングになるのではないだろうか。

そして、我々組織人にとっても、ブラインドサッカーを経験することは、能力開発と組織開発につながるのではないかということを思った。