【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】第38回 自立した個を作る

matsu_seminar業種・業界問わずよく寄せられる人材育成上の相談の一つに、「自ら考え動く社員を育成したい」というのがある。
社員の自立を促すためのヒントは、様々なものから見い出そうとしてきたが、つい先日サッカー指導者が書いた、『自ら考える子どもの育て方』という本を見つけたので読んでみた。著者の髙﨑康嗣さんは、2006年から20011年までの4年間川崎フロンターレU-12の監督を務め、輝かしい成績を残し、現在は川崎フロンターレの地域・コーディネーターを務める育成のスペシャリストということだ。9歳のときにバルセロナに渡り、現在FCバルセロナのジュニアユースのエースで将来が嘱望されている久保建英君も、川崎フロンターレU-12の出身だ。
「世界で通用する選手育成を目指せ!」と副題のつけられたこの本には、指導者だけでなく、サッカー選手を目指す子供を持つ保護者の方へのメッセージもたくさん詰まっている。ちなみに、サッカーを通じて子供の可能性を育むことを、最近“サカイク”と呼ぶらしい。

どういう練習をするかではなく、それをどのようにやるかで成長が決まる
サッカーの指導者が最も意識しなければならないことは、どういう練習をするかではなくて、それをどのようにやるかだ、という。子どもを相手にするなら、その世代がどういう年代なのかを考えて、心理的側面からも考えてやらなきゃいけない。基本にあるのは、「力を伸ばすのはあくまで本人」ということ。だから、コーチがやることというのは、子どもたちのモチベーションを高く保たせて、彼らにまずやらせることだという。内発的動機でもって、サッカーがうまくなりたいって思うようにしなきゃ伸びないということだ。
「子どもたちの目標はジュニアユースへの昇格だとか、全国大会、世界大会への出場だとかがあります。ただ、そこは彼らにとってのゴールではありません。さらなる成長が求められます。従って、成長できる力を育むことこそが最も大切です。掲げた目標に行くまでに経験した、喜びや悔しさがあるからこそ成長できるのです」
子どもたちの成長をどう捉え、どう伸ばしてあげるのか、指導者や保護者の考え方一つで成果は大きく違ってくるようだ。

自立を促す指導
自立すれば自然に自分で考えたくなる。自立はサッカーのプレーの質を上げる。
自立を促す指導の上で最も大事なことは、まずは何も言わずにやらせてみるということだという。そうすれば子供たちは自分で考えようとする。教えてもらえるのが当たり前になると、教えてくれるのを待つようになるだけで、考えなくなってしまう。
あと、フォーカスコーチング、つまり課題を明確に示してあげることが重要だという。たとえば、ひとつの練習で沢山のことをテーマにすればするほど、子供たちはますます考えなくなる。学ばなくなる。
そして、やはり、いかに子供たちのモチベーションを引き出すか、につきるという。
「自分で考える」には「自立する」ことが必要で、そして「自立する」には、「自らのモチベーション」が不可欠だ。だから、モチベーションを引き出すことは指導者の一番大切な役目だ。
高崎さんは、例えば6年生に対して一様に6年生として接していたことはほとんどないという。「サッカーは精神年齢だから」。自分の考えがしっかりしている子、つまり自立している子が試合に多く出ることに結果的になったという。考えてみるとヤンチャだった子のほうが成長は早く、それは親離れと関係しているという。

自立の邪魔をする親の「甘え」「甘やかし」
では、どうすれば子どもたちを自立した個に育てることができるのか。髙﨑さんは子どもの自立について、いくつかの基本的な考え方を解説している。
『子どもは成長とともに自立していかなければなりません。たとえば、自分で朝起きるとか、自分の部屋を掃除するということ。ところが、そこで甘えが出ると「自分がやらなくても親がなんとかしてくれて当たり前」という考えになる。そうなると「指導者が助けてくれて当たり前」になる。困ってたら手を差し伸べてくれる。言わなくても察してくれて当たり前ということになってしまう。そうした甘えが多くなると、サッカーにも影響してきます。局面で判断が必要なときにそれができない。そして、それを人のせいにしてしまう。つまるところ、わがままなプレーをするようになる。
保護者の皆さんには「子どもを必要以上に甘やかさないでください」と伝えていました。ぼくが考える甘やかしは「早く寝なさい」とか「早く勉強しなさい」とか「お風呂に入りなさい」というような声がけです。これは答えを与えているという意味で、甘やかしなんです。「うちは厳しいんです」と言ってこれらの答えを口にする家庭も少なくありませんが、それは厳しさではありません。またそうした認識を子どもたちにも伝えました。「こうした答えを言われたら負けだからね。サッカーと同じで人から言われる前に行動することが大切でしょ」と言いました。もちろん子どもたちが早寝や勉強、食事の大事さを知っていることが前提です。』

何も言わないのではなく、問いかけることが大切
では、親はどのような接し方をしたらいいのか?
髙﨑さんは「何も言わない」のではなく、「問いかけ」をしてほしいと言う。
子どもができていない時の親からの働きかけは必要だ。
夜更かしする子には「明日の朝は自分で起きれるの?」という声がけ。食事を残す子どもには「ご飯を食べないで動けるの?」だったり「それで身長は伸びるの?」といった子どもの心に響くような問いかけを続けるといいという。
寝坊したり、準備ができなかったり、忘れ物をしたりして叱られれば、覚えていく。何かができなかった時に、自分が大変になるということを理解することが大切で、当たり前のことをできないことが本当に恥ずかしいのだという認識を親子で持つべきだという。
そうした認識を持つためには、 「早く寝なさい」というのではなく「明日の練習がきつくなるよ」と声がけし、良い睡眠が良いプレーにつながるということを自ら理解することが鍵だ。
「早く片付けなさい」ではなく、「明日の準備はすぐにできるの?」ということで、どこに何があるかわかるので良い準備につながるということを自らのものにしていくのだという。

叱るタイミングを考える
また「叱る」ことについても、髙﨑さんは全面的に禁止するのではなく、タイミングが大切だと言う。
『子どもを叱る時、タイミングが重要になります。何もないのに何かの言葉を投げかけても響きません。たとえば部屋が散らかっていたとしても、すぐに何かが必要で無い限り心には響きません。本人は大丈夫だと思うからです。でも、次の日に部屋が散らかっていることで必要な物を見つけられない時に「片付けないからだよ」と言えば伝わりやすいでしょう。同じように、汚れたユニフォームなどを洗濯かごに出さずに放置したことで、翌日汚れたものを着なければならない時なども叱るタイミングとしては有効です。』
つまり、適切なタイミングを見つけることが大事なのだ。

こうしてみると、我々ビジネスパーソンも本質は同じようなものではないだろうか。
単に目標を達成したかどうかではなく、どのようにやろうとしたかに十分目をやれているだろうか。そして目標達成に至るまでの喜びや悔しさをどの程度味わったか、成長につながるどのような経験をしたかを、十分に振り返れているだろうか。
あるいは、先回りしたり答えを与えたりしてしまって、本人の自立を邪魔してはいないだろうか。
適切な問いかけができているだろうか。そして、心に響くタイミングで叱れているだろうか。