【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】第37回 脳科学から日本サッカーを強くする ~日本人の脳の特徴~

matsu_seminar先日あるテレビ番組で、日本サッカーを強くするためには、脳科学の見地から示唆を得るべきという議論があり、大変に興味深かった。(「Foot×Brain」 9月27日放送)

私自身も、人材育成に携わる中で脳科学の研究成果や知見を活かしたいと考え、いくつかを実際に試みているので、その点でも大変に参考になると思い、録画を何度も見直すほどだった。

是非、私の理解を整理してまとめておく機会とし、組織開発や人材育成に携わる皆さんにも共有しておきたいと思う。

いわく、日本人は、脳の遺伝子のレベルで、世界の標準と大きく異なる点があるのだという。

脳は、自分の頭なので、何だか鍛えられそうな気がする。もちろん成長もする。しかし、脳が遺伝子のレベルで決まっているという点については、身長や体重などと同じで、気合や意思の力で何とかできるものではない。従って、前提とすべきだというのだ。

日本人の脳は3つの点が極めて特徴的だという。特徴的どころか、これら3点は、世界一ということだ。

1.セロトニン・トランスポーターの少なさ

2.XシステムよりCシステムを採用する度合の多さ

3.ドーパミン・レセプターの強さ

それぞれこれらの脳の遺伝子的な特徴が、どのような意味を持つのか詳しく確認してみる。

【日本人の脳の特徴①】セロトニン・トランスポーターの少なさ

セロトニンというのは、脳内で「安心感を生む」物質だ。その量を調整するタンパクが、セロトニン・トランスポーターである。セロトニンの量が多い程、安心する。少ない人は心配性ということだ。

日本人は、遺伝子的にこのセロトニンの量がかなり少ない。セロトニン・トランスポーターが十分に機能せず心配性の人の割合は、ヨーロッパで約40~45%、アメリカで約44%、南米に至っては約28%だが、東アジアは70パーセントを超えるということだ。さらに、東アジアの中でも、韓国は79.4%、中国は75.2%に比して、日本人は80.2%となっている。つまり、日本は世界で最も心配症の人が多いということだ。

心配症ということはメリットもあり、不安をなくすために努力や準備を怠らない人が多いということも言える。確かに、サッカーの世界でも、外国人監督や外国人選手が、「日本人はなんでそんなに練習するのだ。しすぎではないか、もう少し休んだ方が試合でよいパフォーマンスを出せるぞ。」といった言葉を口にすることがよくある。

【日本人の脳の特徴②】XシステムよりCシステムを採用する度合の多さ

脳が意思決定するときのシステムは、大別するとXシステム(Reflex=反射的)とCシステム(Calculate=計算的)の2種類があるらしい。

日本人が意思決定を行う際に最優先で考えるのは正確性であり、正確に計算して意思決定するというCシステムが採用されることが多いというのだ。

日本人の正確性が現象として出ているものとして思いつく例は、列車の運行である。例えば、山手線など、1周するのに1時間かかるが、早いものと遅いものとでわずか15秒しか狂わないという。こんなことができるのは、世界広しといえどもやはり日本人だけであり、それは実は脳の遺伝子レベルでかなりの部分決まっている要素が大きい。

一方で、脳がCシステムを採用するというのは、計算するために時間がかかるということであり、意思決定の遅さにつながる。それがたとえゼロコンマ何秒かの遅れであったとしても、サッカーの世界では致命的だ。

【日本人の脳の特徴③】ドーパミン・レセプターの強さ

ドーパミンは、「快楽物質」だ。この物質のレセプター(受容体)が、日本人は平均的に強いのだという。ドーパミンのレセプター(受容体)が強いということは、「簡単に満足してしまう」ということだ。つまり、チャレンジをしない、あるいは、チャレンジをして得られる満足よりも、むしろ、「失敗しないことが満足」ということにつながりやすい脳の構造をしているらしい。

ドーパミン・レセプター(受容体)が一定レベルより弱い人の割合は、南米は約40%、アジアは10パーセント以下で、特に日本人は1%にも満たないという調査結果がある。

南米などでは、よほど大きな刺激でないと満足しない人が多いということだ。ブラジルやアルゼンチンがチャレンジを生むサッカーをするのは、脳科学的に裏付けられていると言えよう。

あらためて見ると、随分前から日本人の特徴として言われてきたようなことかもしれないが、脳の見地からも科学的根拠があるとなると、これらの脳の特徴を前提として、あるいは活かしたサッカーを志向しなければ日本は強くならない。

心配性で、判断が遅く、失敗を嫌うという日本人にあったサッカーをするには、一体どのようなことをすればよいのか。

ちなみに番組に出演していた脳科学者は、2つの提言をしていた。

1つは、チャレンジを想定外にするのではなく、全て想定内のことと捉えることが必要ではないかというものだ。確かに「チャレンジしろ」という言葉は、まるで「普段から逸脱して、いつもと違うことをしろ」というように聞こえる。

それは日本人の脳に合っていないので、普段から練習の中で、試合でするチャレンジを当たり前のように組み込んで、チャレンジではなく普通のことにしてしまうというイメージだ。

もう一つは、「ナビゲーションニューロン」を鍛えろ、ということだ。ナビゲーションニューロンとは、無意識で体の動きを決める神経細胞である。酔っぱらって記憶がなくても家までたどり着けるのは、このニューロンが働いているかららしい。

パスコースなどの選択肢がたくさんあって、どれが最もよい選択肢なのか考えさせることは、教育的配慮としてはよい。しかし、本番では選択させてはだめだというのだ。Cシステムで意思決定する日本人の脳は、時間がかかってしまう。幸い練習することは厭わない脳の構造をしているのだから、徹底して練習してプレイの習慣化を図り、いざというときには、意思決定するのではなく、体が反応するという状況を作るべきなのだ。

私にとっても大変興味深い研究テーマができたように思う。さらに追求し、発展させていきたい。