【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】第36回 ザッケローニ監督を人事評価する ~ザッケローニジャパンへの誤解~

matsu_seminar先日まで日本代表を率いていたザッケローニ監督は、世間から不当に低い評価をされているのではないかという思いが日増しに募る。その理由はもちろん、その集大成であるはずのW杯で、日本代表が一勝もできなかったという結果に終わったことに帰するとは思う。

しかし、W杯で勝てなかったこと以上に、このことを放置することは、日本サッカーの将来にとってとても重大な影響を与えることになると思うので、居ても立っても居られず、ペンをとることにする。

このこととは、即ち、ザッケローニ監督が世間から“不当に低い評価”を受けたまま終わることだ。

世間一般の評価とはどのようなものか。

何となくの雰囲気に支配される。例えば、W杯で勝てなかったのだから、大した結果を残せなかった監督という間違った認識が醸成されてしまう。

あるいは、情緒的な振り返りのみが行われる。例えば、ザッケローニ監督は、結果は残せなかったが、人間としては素晴らしい監督だった、といったもの。

そして、何よりも懸念されるのは、そもそもきちんとした評価をしないことだ。うやむやのままで終わらせ、次の監督であるアギーレへの期待にすり替わえられてしまいつつある。

ザッケローニジャパンは、何だか、なかったことにまでされようとしているのはとても寂しい。

そして、こうした評価をきちんとしない風潮は、サッカーの話に留まるものではなく、日本人の気質というか、一般企業においても、なかなか改善されない問題として横たわって久しい。

そこで、私は独断で勝手に、ザッケローニ監督の人事評価をきちんとしてみようと思う。

人材開発や組織開発に携わる皆さんにとっては基本中の基本の話だが、きちんと評価するというのは、
1.「期待値を設定する(本人とすり合わせる)」
2.「成果・結果の事実を集める」
3.「相対的に判断する」
というステップを踏むことだ。

まず、1.「期待値を設定する」だが、ザッケローニ監督に日本サッカー協会がどのような期待を抱き、本人とすり合わせていたかは、我々には知る由もない。

しかし、想像するに、次のようなものだったのではないかと思う。

・日本代表を(真に)強くすること
・特に(これまで弱点だった)攻撃力・得点力を上げること
・結果としては、日本をW杯に必ず出場させること

ザッケローニ監督の通訳を務めていた矢野さんに確認したら、その通りだという反応だったので、そう外れてはいないだろう。

「願わくば、W杯本大会で前回大会以上の成績を」というのは、マスコミを通じて周囲が勝手に作り出した期待であって、協会と本人と両者で握ったものではなかったはずだ。ならば、上記の期待値に対して正当に評価すべきだ。

次に、2.「成果・結果の事実を集める」だが、それでは、ザッケローニ監督の成果・結果を、事実に基づいて見てみよう。

4年間を通しての戦績だが、56試合を戦って、31勝 – 12分 – 13負という数字だ。勝率は70.5%と、実はこれまでW杯を戦った日本代表史上、最も高い数字だ。

攻撃力・得点力を表す数字も、1試合あたり1.13点と、これもまた、これまでW杯を戦った日本代表史上、最も高い数字なのだ。ちなみに1試合平均1点台に乗せたというのは、トルシエ監督も、ジーコ監督も、岡田監督もできなかったことだ。

最後のW杯での戦績が奮わなかったがために、全体を通しての成績もよくなかったのではないかという印象を多くの人が抱きがちだ。しかし、間違いなく日本代表を強くし、攻撃力・得点力も向上させているのだ。

よく人事評価では、「考課直前のできごとによって評価結果が触れがち」ということが言われるが、その典型的な例と言えよう。

最後に、3.「相対的に判断する」ということも試みてみよう。

岡田監督(第2次)、ジーコ監督、トルシエ監督、岡田監督(第1次)と比べてみるということだ。いくつかは既に比較したものを提示した。

しかし、「総合的にはそうだったかもしれないが、強い国、例えばヨーロッパ相手には勝てなかったではないか。それが結局W杯での結果に繋がってしまったのだ。」とか、「総合的に見ても強くなったかどうかは分からない。日本は内弁慶ということが言われて久しく、ホームで強いだけであって、アウェイで勝てないということは変わっていないではないか。」といった批判をよく耳にした。そこで、他の監督との比較を試みてみた。

ザッケローニ監督のヨーロッパ相手の勝率は60.0%だ。これは、ジーコ監督(61.5%)よりわずかに低く、岡田監督(第2次 55.6%)、トルシエ監督(50.0%)、岡田監督(第1次 33.3%)よりは随分高い数字だ。

また、ザッケローニ監督のアウェイでの勝率は58.3%。この数字は確かに歴代で最も高いわけではない。しかし、最も高いのは、やはりドイツW杯で惨敗したジーコ監督(66.7%)であって、日韓W杯で決勝トーナメントまで駒を進めたトルシエ監督は28.6%と相当低い。日韓W杯ではホームの地の利がやはり大きかったか、ということを思わざるを得ない。

こうして見ると、アウェイで強くなることが必要というよりも、W杯はホームでもアウェイでもないところでの戦いが求められるのだから、言わば「セントラル」での戦いで結果を出せるように強くなることが求められるのだろう。

セントラルでの数字は見れていないが、ザッケローニ・ジャパンはカタールで行われたアジアカップで優勝しているから、決して低い数字ではないはずだ。

本当に、最後のW杯で結果を出せなかっただけだが、そのことが、あまりにも大きく世間の評価や評判に影響していると感じざるを得ない。

これから日本の強化を図っていくためには、我々が冷静な目を取り戻さないといけない。