【山田奈緒子】多様性の本質にせまる!~第3回 多様性と組織の価値観

yamada_newダイバーシティ推進やキャリア開発、リーダーシップなどを専門とするPFCシニア・コンサルタントの 山田奈緒子による「多様性推進活動を職場の改革につなげる」をテーマにした寄稿です。社内でのダイバーシティ推進活動の一環としてパナソニック(株)様のイントラネットにも掲載されています。

第3回 多様性と組織の価値観

前回の記事では、個人の価値観を取り上げましたが、今回は、組織の価値観について考えます。組織の価値観は、経営理念、バリュー、○○ウェイなどと呼ばれ、その企業の望ましい組織文化、平たくいえばありたい社風を言葉で表現したものです。

「組織の価値観」は多様性をマネジメントするために欠かせません。現場の管理職の方から「多様性を認めると究極的には組織はバラバラになってしまうのではないか」という問題提起をいただくことがありますが、多様性推進は決して「何でもあり、何をやってもオッケー」ということではなく、「違い」を組織の力にしていこうという取り組みです。したがって、多様性推進をしているときこそ「違い」をどうまとめるかというマネジメント力が問われます。社員が共通して守るべき組織の価値観の存在は、管理職が多様性をマネジメントする上で活用できるツールになります。組織の価値観というと大げさに聞こえるならば、職場の規範やチームのモットーと言い換えてもよいでしょう。

たとえば、女性の活躍推進をしている企業で「女性社員が育児休暇や時短勤務を当然の権利として受け止めるようになり、子育て中は成果にこだわらずそこそこ働けばいいというような甘えの雰囲気がある」という問題があるとします。こういうときに、「社員はみな自立したプロフェショナルであり」「創意工夫により最大の成果を目指す」というような意味あいの価値観が組織で明文化されていたり、職場規範として存在すると、「多様な働き方を実現しながら、各人の専門性・強みをいかして最大の成果を上げるにはどうしたらよいか」というテーマで面談やチームでのディスカッションがしやすくなります。組織の価値観は、職場風土のマネジメントに活用するべきものです。

一方で、価値観の押しつけには気をつける必要があります。組織の価値観に関して、特に若手社員からよく出る率直な反応が、「会社に価値観を押し付けられるのはいやだ」というものです。バリュー経営の第一人者である一橋大学の一條和生教授も、組織成員各人の価値観がばらばらであるのはいけないが、組織と個人の価値観が完全に一致するカルト教団のような状態もよくないとしています。会社の企業理念だけが是とされて、働いているときは個人の価値観や信念は持ち出さず伏せておかなければならない、というのでは極めて不健全です。各人の価値観が尊重されて自分の個人的価値観と組織の価値観に共通点が見いだせる状態があるべき姿です。そうしたとき、組織の価値観が求心力となり、若手もやる気になるでしょう。

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このような組織の価値観と個人の価値観のちょうどよい関係は、人財マネジメントの世界では「エンゲージメント」と呼ばれます。「エンゲージメント」はつまり「婚約中」の状態。この会社、ちょっと気になるところもあるのだけれど、核となる価値観に共感するのでここで働いて自己実現を目指そう、と社員が自ら意思決定している状態です。当然ながら、この状態の社員はモチベーションが高いわけです。

では、価値観に共感する「エンゲージメント」状態はどのようにもたらされるのか?キーワードは、「体験」と「気づき」です。もう10年ほど前になりますが、私は日系企業の海外現地法人で働く、現地人社員のヒアリングからこのことを実感しました。イギリスのある日系自動車メーカーで現地人マネージャーのヒアリング調査を行っていた時、一人の若手イギリス人マネージャーが、こんな話をしてくれました。彼はMBAを取得し、そのときに学んだ日本的生産方式と経営哲学に心酔し、この日系自動車メーカーを熱望して入社しました。ちょうどイギリスに工場が立ち上げられたときで、日本人赴任者による現地社員へのトレーニングから彼の会社生活が始まったのですが、当時の体験を彼は「軍隊に入ったみたいで本当にいやだった。日本人トレーナーに許可を得なければトイレにすら行けなかった」と振り返ります。イギリス人としての尊厳を傷つけられるような屈辱的な体験だったそうです(大げさですが、本当に彼はこのような表現をしました)。そして仕事のあらゆるプロセスについて、なぜこんなに細かく厳しくやる必要があるのか、疑問だらけだったとのこと。彼は、日本人赴任者と(ここがすばらしいところなのですが)夜な夜な延々言葉を尽くして議論を重ねたそうです。(「言葉を尽くして議論する」、はまさにイギリス人が大切にする価値観です。)そんな彼が、1年間、日本のマザー工場へトレーニーとして赴任することになりました。この日本での体験で「なぜこれほどまでに厳しくやるべきなのか、目から鱗が落ちるように分かった」のだそうです。「これこそ○○イズムであり、MBAで学んだ生産方式はこの魂(価値観)がなければ実現しえない」と目を輝かせてイキイキと語ってくれました。イギリスに帰国後、日本での体験を同僚に語ることが自分の新たなミッションになったそうです。日本人赴任者がイギリス人社員に伝えるよりも、彼が伝えた方がはるかに多くの現地人社員を共感させることはいうまでもありません。

これが、いま多くの日本企業が取り組んでいる「グローバル理念浸透」です。多様な価値観、とりわけ日本と異なる文化的価値観をもった海外子会社を、理念(組織の価値観)でまとめ、求心力を上げようとする取り組みです。私がこのイギリスの日系自動車メーカーでヒアリングを行ったのが今から10年前です。2日間で10名の現地人マネージャーをヒアリングしきましたが、なんと10名全員が、会社の価値観を自分自身の価値観と照らし合わせつつ、決して一筋縄ではいかなかった組織にエンゲージメントしていく過程を、自分の言葉と体験談でイキイキと語ることができました。一方で、他の在英日系企業では、そもそも会社の価値観への関心がなかったり、自身の価値観(働く上で大切にしている信念)について考えたことがない、言葉で表現できない、といった現地人マネージャーにも出会いました。どちらの職場の方がモチベーションが高く、しいてはイノベーションが起こりやすいか(社員が組織のために独自の発想を進んで提供する)か、想像してみてください。

さて、みなさんは会社の価値観(理念、ウェイ)を自分自身の価値観と照らし合わせつつ、自分の言葉と体験談で語れますか?外国人や女性、世代や出身母体の違う多様なメンバーで、組織と個人の価値観を語りあうことをおすすめします。