【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】第30回 プレッシャーやストレスが成長を促す ~本田選手のACミラン移籍と小保方さんによるSTAP細胞の発見~

matsu_seminar 世間でも大きく取り上げられているが、この冬私が衝撃を受けた2つのニュースがあった。本田選手のACミラン移籍と、そして小保方さんによるSTAP細胞の発見だ。一見何の関係も脈略もない話だが、この2つのニュースは私の関心を惹いてやまず、また、2人の考え方やメンタリティが共通していると感じたので、綴っておくことにしたい。「プレッシャーやストレスが成長を劇的に促す」というのが、2人の記者会見を聞いて私の中に残ったキーセンテンスだ。

本田圭佑選手が、とうとうACミランに移籍した。世界を代表するビッククラブへの移籍を実現したどころか、助っ人として大変な期待をかけられ、エースナンバー10番を背負ってプレイする。サッカーファンなら誰でも知っていることだが、ACミランの10番というのは、フリット、サビジェビッチ、ボバン、ルイ・コスタ、セードルフと、その時代の世界を代表する選手達がつけてきた番号だ。サッカー協会名誉会長の川淵さんが、「Jリーグを始めた20年前には、ACミランの10番を日本人がつける日が来るなんて、夢にも思わなかった。100年経っても無理だと思っていた。」と言っていた。私も、漫画の世界だけで起きることだと思っていた。子供の頃“キャプテン翼”の発売日を楽しみにしたように、これからは毎週の試合が本当に楽しみでならない。本田選手は、自分自身をとことん信じることができる人だ。だから絶対に自分からあきらめない人だ。決して才能に満ち溢れていたわけではなく、「サッカー選手としては凡人だ」と本人もよく語っている。凡人だから少年の頃はユースにも上がれなかった。度重なる怪我、しかも重傷で緊急手術を受けるなど、逆境に置かれることも少なくなかった。「サッカーって基本的にうまくいかないことの方が多いです。神様がいらん障壁ばっかり立てますけど、望むところですよね。壁がある度に神様に感謝しないと。この状況を与えてくれてありがとうって。」「凡人だから、当然ながら壁にぶち当たることが多かったんで、そりゃやめるタイミングはいつでもありますよね。怪我している今だってあるし。でもそんなに簡単に夢ってあきらめられないでしょ?」(出所:「プロフェッショナル~仕事の流儀」2013年6月10日放送)“逆境でこそ輝くメンタリティ”の持ち主なのだ。そして、自らをとことん信じれるからこそなのだろう、自身で自らに相当なプレッシャーとストレスを与えている。そして、そこからの刺激を楽しんでいるように見える。本田選手をここまで成長させた原動力は、何と言っても「プレッシャーを刺激にし、ストレスを成長の糧に変えることができる」才能だろうと思う。
今回の移籍では、「ミランの10番をつけることに対するプレッシャーはないのか」と記者に問われた際、「では逆に僕から皆さんに質問したいのですが、10番をつけるチャンスがあるのにそれを自分から逃しますか?」と答えている。
さらには「自信がなければ10番を要求しない。求めていなかったら、ここにたどり着けなかった。イタリアに慣れるまでに時間がかかるとは思うし、W杯もある。逃げられる環境にないので、とてつもないプレッシャーと付き合っていきたいと思います。プレッシャーがないと意味がない。だからこそ大きく飛躍できる。これを楽しんでいければいいなと思います。」と述べていた。

ところで、本田選手の移籍と小保方さんの大発見がどうつながるかだが、私は(全く個人的な話で恐縮だが)、小保方さんの記者会見を聞いていて、本田選手の記者会見を聞いているかのようなデジャヴの錯覚に陥った。
世界的に権威あるイギリスの科学誌ネイチャーに最初に投稿した際、「あなたは過去何百年と続いてきた生物細胞学の歴史を“愚弄”している」と酷評され、掲載を却下されたという。
(しかし、余談だが、このエピソードは、科学者として最大級の賛辞として語り継がれることになるのだろう。つまり、それだけ歴史を塗り変えるほどの大発見だったということだ。「動物(哺乳類)細胞では絶対に起こらない」というのがそれまでの常識だったわけで、例えれば、天動説が信じられていた時代に地動説を唱えたコペルニクスのようなものなのだろう。)
周囲からも、「何かの間違いだろう」と言われ続けたと言う。しかし、彼女は自分を信じ、絶対にあきらめなかった。ビッグサイエンス(多額の資金を投じたり、多数の研究者を動員して行われる科学上の研究プロジェクト)でもない環境で、絶対にあきらめなかった。「やめてやると思った日も、泣き明かした夜も数知れないです。しかし、今日一日、明日一日だけ頑張ろうと思ってやっていたら、5年が過ぎていました。」と言う。
報道によれば、マウスの幹細胞を取り出す時、通常の細胞より小さいため極細のガラス管で通そうとしたら、通す前は幹細胞が一切なかったのに関わらず幹細胞らしいものができていて、これがSTAP細胞の原型だったということだ。記者会見で彼女は「細胞が極細ガラス管からの“ストレス”により初期化されたのではないか、との着想を持った」と語っていた。
「ストレスが生物の進化を促す」という発想をしたことが、この世紀の大発見の鍵だった言えよう。この人は、ストレスは避けるべきものではなく、むしろ自身の成長を促すということを実感する人生を送ってきているのではないだろうか、と思った。まさに、本田選手のメンタリティだ。ストレスやプレッシャーから逃げる人や、ストレスやプレッシャーはほどほどがよいと考える人では、この発見は生まれなかったはずだ。
その後、彼女は、細胞に毒素を与えたり、飢餓状態にしたり、ヒートショックを与えたり、思いつく限りの“ストレス”を与えたらしい。結果的に弱酸性溶液に25分浸しその後培養すると一番効率良くSTAP細胞ができたということらしい。小保方さんによれば、「私達の細胞も「強いストレスやプレッシャーがかかるとどうにか生き延びようとするメカニズムが働くのでは」ということだ。
私達には、細胞レベルで、強いストレスやプレッシャーがかかるとどうにか生き延びようとするメカニズムが働いているのだ。
ならば、自信を持って(自分を細胞レベルで信じて)、強いストレスやプレッシャーに、正面から向き合っていった方がいいのだと思った。そして、安心して(自分を細胞レベルで信じて)、むしろ、自らに強いストレスやプレッシャーをかけていったらよいのだとも思った。

本田選手は、そんなことは前から分かっていたのだろうか。とことん自らに強いストレスやプレッシャーをかけていく人だ。
W杯で優勝する、と公言している。かつて、そんなことを公言した日本代表選手は1人もいない。「難しいことなんて百も承知やし、強豪国から言わせたら、何を言うてんねん、て言うかもしれんけど、誰がなんと言おうと、W杯は優勝しか考えてないです」と言う。
普通の人は、そこまで自分を追い込んでしまうのは怖く、プレッシャーやストレスを自らかけるのには躊躇するものだ。無意識にもどこかで逃げ道というか、実現できなかったときの弁解の余地を残そうとしてしまうものだ。
しかし、小保方さんの発見によれば、プレッシャーやストレスのかけ方によっては、細胞レベルでは、成長を促すどころか、全く新しいものに生まれ変わることさえできるというのだ。STAP細胞の科学的・専門的なことはさっぱり分からないが、これから、自らへのプレッシャーやストレスのかけ方はとことん研究してみたいと思うようになった。