【山田奈緒子】多様性の本質にせまる!~第2回:変革と価値観の多様性

yamada_newダイバーシティ推進やキャリア開発、リーダーシップなどを専門とするPFCシニア・コンサルタントの 山田奈緒子による「多様性推進活動を職場の改革につなげる」をテーマにした寄稿です。社内でのダイバーシティ推進活動の一環としてパナソニック(株)様のイントラネットにも掲載されています。

第2回:変革と価値観の多様性

12月も半ばになり、そろそろ一年の振り返りをしている方もおられるのではないでしょうか。今年もいろんなことがあった、充実感を得たこと、感じられないこと様々あったなどとあれこれ思いをめぐらすことは、自分の得意・不得意やゆずれないこと、信念や価値観を内省することにもつながるのでぜひ時間を取ってみてください。

さて、今回は個々人が持っている価値観について考えてみたいと思います。多様性推進では、性別、国籍、障がいの有無、年齢差といった目に見えて識別可能な「表層的なレベル」の違いが注目されがちですが、仕事経験や働き方の好み、パーソナリティといった、すぐには分かりづらい「深層的なレベル」の違いもその対象になります。私たちは究極的には、表層的なレベルよりも、深層的なレベルで他者から理解され、信頼されたいと願っています。各人の「らしさ」の中核となる価値観は、深層的な違いの中でも最も大切なものと言ってもよいでしょう。

先日放送されたNHKのテレビ番組、『白熱教室・リーダーシップ論』で、次のような一場面がありました。中東のある国で女性の人権擁護の活動をしている女性がこう発言しました。「中絶をする、しないは女性の問題なのに、それに対して強固に反対する男性がいることが理解できない」これに対して、ハーバード大学のロナルド・A. ハイフェッツ教授は次のように答えていました。「そう言っている男性は、恐らく子供のときから自分の親に、家族の在り方や命の大切さなどを教わってきたに違いない。君がやろうとしていることは、その男性にとっては代々から伝承されてきた価値観にチャレンジすることだ。変革のリーダーは、抵抗する相手がどのような価値観を持っているのかを理解するところから始めなくてはならない」

変革活動の中でも多様性推進、とりわけ女性活用では個人の価値観とのぶつかりによく直面します。依然あるのが、「女性は男性を支えるべき」という価値観です。さすがに、ストレートにこれを言うのははばかられる世の中になりました。しかし、日本の大企業の経営陣の話し合いをファシリテーションすると、「わが社の仕事はタフなのだから(男性がやっていればよくて)、別にわざわざ女性がやれるように特別な取り組みをする必要はないだろう」という意見に遭遇します。また、昨年中国の深圳に視察旅行に行った際、同行した日本企業の若手男性社員が、地方にある実家に子供を預けて働く(年に2、3回しか子供に会わないという)中国人女性に、「僕は子供が生まれたら妻に育ててほしいと思う。なぜ子供を遠くに預けてまで仕事をするのか?」と質問するのを目の当たりにしました。(中国人女性は「大学まで卒業したのに、なぜ子育てに専念しなきゃいけないかが分からない」と答えました。)「女性は男性を支えるべき」という価値観は、形を変えて根強く存在しています。

もう一つ、女性活躍推進は「自由競争・実力主義であるべき」という価値観とよくぶつかります。先日、来年から本格的に多様性推進活動に取り組むあるハイテク企業の部長にヒアリングをしました。変革の主要ステークホルダーである現場の部長の認識をまず把握しよう、という試みです。この方曰く「会社がやるというならまぁやるしかないが、本心は反対。わが社は意欲と実力のある人が率先して動き、その結果昇進するスタイルでここまで成長してきたのだから、女性管理職を何割に、といった数合わせや、実力は足りないけれど多様性推進だから女性の方を昇進させるなんてナンセンスだ」とおっしゃいました。

“女性管理職を増やす活動は実力主義に反する”というのは単純な誤解です。多様性推進は、健全な競争主義の中に女性や外国人といった、これまで部外者であった人材にも入ってもらいましょう、パイを大きくしましょう、という活動です。最近、ソニーや日立も導入しはじめた女性管理職比率の数値目標は、クオータ制と呼ばれる平等を目的とした割当制とは本質的に異なり、この数値を実現するために何を行うべきか知恵を絞り出すことが目的です。また、意外と誤解している方が多いのですが、多様性推進は女性に下駄をはかせて昇進させることではなく、これまで手薄であった女性への能力開発を行い、実力はあるのに昇進しない・できないような壁を取り除く活動です。昇進に際して、男女の候補者が同じ実力であれば女性の方を昇進させる、という方針を取る企業はあります。このような誤解に気づいて、この部長さんにはぜひ抵抗勢力から変革の推進者になってほしいものです。

ダイバーシティを強力に推進しようとしているある有名企業の経営者は、「男性幹部が女性活用に反対するのは、自分たちの既得権益を守りたいからだ」とばっさりおっしゃいます。それが本当なら、実力主義や競争から逃げているということになります。果たしてハイテク企業の部長の抵抗は、単に誤解からくるものか、それとも自分を守りたくて詭弁で実力主義を持ち出したのか、次にお会いするときはじっくり話し合ってみようと思います。