個人への理解から始まる異文化理解(上): ジョン・マクナルティ

1. マレーシア人が凍り付いた質問とは? 国の文化背景を前もって知ることの大切さ

今回は、マレーシアのペナン島にある日系企業の現地法人で研修をした時の話からご紹介します。

「マレーシア人同士や地域でどんな文化の違いがありますか?」

私がこう聞いた途端、それまでは和気あいあいとしていた研修会場が、急ブレーキがかかったようにシーンと静かになってしまいました。

以前、日本で行った異文化研修で「関東と関西の違い」などを話した時、活発な話し合いになったので、マレーシアでも同様に行ってみたのです。しかし、この結果。

なので私は質問を変えて、マレーシアと日本との違いについて聞いたのです。参加者は、ほっとしたような顔で、再び発言をはじめました。

研修の後、その企業の人事部長の方と食事をしました。彼は中国系マレーシア人です。研修の参加者も約80%が中国系の人々でした。マレーシアの人口の割合は、約70%がマレー系で、中国、インド系は少数派です。1950年代にはマレーシア人口のうち中国系は47%でしたが、現在は約25%です。国内で少数派のわりに、研修参加者のほとんどが中国系というのも興味深かったので、なぜ中国系の社員が多いのかと彼に聞くと「勤勉だからです」という返事でした。なるほど、自分が所属するグループを尊重する傾向があるのだという気がしました。

その人事部長の方は、私が研修参加者にマレーシア国内での文化の相違を聞いたことについて「ああいう場では当然、誰も何も答えないと思います」と言いました。同じ国民同士でも摩擦があり、中国系マレーシア人は、自分たちをマイノリティーと感じていると言うのです。例えば、家を購入する時などは、マレー系の人々を優遇する政策(ブミプトラ政策)があります。これは、比較的裕福だった中国系とバランスを取り、マレー系国民の経済的地位を向上させるための政策だそうです。

また、マレーシアの会社の営業日はクアラルンプールでは月〜金ですが、クアラルンプール以外の地方の町では、木、金が休日で、営業日は土〜水となります。クアラルンプールでも金曜日の昼の2〜3時間は、法律上、イスラム教徒の社員は礼拝の時間として外出して良いそうですが、なぜかショッピングモールが賑わうそうです。ただ、イスラム教徒以外の社員には適用されません。そういった違いも国民の間で多少の摩擦となるのかもしれない、と話してくれました。

幸い研修はうまく行きましたが、前もってマレーシアの歴史や民族、人種など、国の背景をもっと調べていれば良かったなと思いました。ただ、一方では、どんなに予習しても、その場ではどんなことが起きるかわかりません。なので、常に自分と受講者の状況を意識しながら、柔軟性をもって臨機応変に対応することが、欠かせないとも思いました。

これは私の、講師としての体験ですが、グローバル・リーダーの皆さんにもぜひ参考にして頂けたらと思います。

2.  国籍と同じように文化について質問してみよう

マレーシアでは、長年の歴史を経て、国民の人種同士の外見がだんだん似てきています。ある人は顔だけを見ると、中国系なのかマレー系なのかわかりません。そこで一番大事なことは、その人たちの帰属意識です。どこのグループに所属しているのか、どのくらい帰属意識をもっているかが大事なポイント。それが、その人の民族や個性ともつながっているのです。

人種というのは、外見や表面的なものからある程度わかります。一方、民族性は、その人の心の中のことなので、その人の背景や歴史を聞いてみないとわかりません。私の出身国アメリカのように、顔の風貌が中国人に見えてもアメリカ人だったりする国民がいるケースもあり、人々を外見の特徴で判断することは難しく、またそのことは快く思われません。

グローバル社会では、人を外見で判断することは、避けなければならないのです。

このことは、日本ではあまり意識する機会がないかもしれません。しかし、リーダーや講師の立場としては、先入観を捨てて「あなたの文化は何ですか?」と聞くのが大切です。例えば海外に行った時、顔立ちや人種の印象で勝手に決めず、「あなたの文化は何ですか?」と聞いてみてください。実際、その人自身の文化背景を説明してもらうのは良いことです。多様な人が集まっている場所では自分たちに説明させるのです。また、お互いについて、相手の文化の良いところは何かと聞いてみると良いのです。公の場ではお互いの立場を守ることが大切ですし、リーダーは中立の立場を守ることを心がけましょう。

3. 社員のもつ様々な「異文化」を活用する

文化には国別・国内の地域別、業界の企業別・職務別・個人別などいろいろなレイヤー(階層)があります。最後の「個人別」はまさに「Culture of one」(その人ひとりの文化)。

その中で、まず、企業内の異文化を考えてみましょう。グローバル・リーダーや日本企業がグローバル化を進める際、組織内の共通の文化や異文化を活用することで、個人の国籍、民族など文化背景の違いを乗り越えることができます。たとえば、経理部と営業部の人々がお互いの部署間の違いについて話し合う場を作ってみてもいいし、前職の職場と今の職場の文化を比較してもらってもいい。

もちろん、自社がすでに築き上げている「企業文化」も重要です。グローバル展開している企業では、徹底して独自の企業文化を活用している会社も多いですね。

できるだけ自社の企業の文化を生かしながら交流をはかることで、社員の一体感をより高めることができるでしょう。