ブラジルで日系企業が成長するための3つの課題〜ジョン・マクナルティ

私は今年、ブラジルのサンパウロを訪問して、さまざまな日系企業、また日系企業と関わって働く方々にお会いしてきました。目的は、日系企業がブラジルでビジネスを展開する上での課題を探るということです。組織開発の課題・従業員の育成などの、日本企業をグローバル化する上での課題ですね。特に、日系企業が海外でいかに優秀な人材を確保できるかということは、長い目で企業の成長、競争力の強化を考える上で大事なポイントです。その観点で、ブラジルで13の組織の人々にインタビューをしてきました。その中で、今回見えてきた3つの課題をご紹介したいと思います。

【1】1日で25の法律が変わることも!〜「ブラジルコスト」について
ブラジルでビジネスを行う人の間ではよく知られていることなのですが、これが一番難しいものかもしれません。
・ 規制が複雑で、税金も非常に高いこと。たとえば、確定申告ひとつとっても大変時間がかかるそうです。税金の種類も多く、製品によっては10種類以上の税金がかかることもあります。書類の量も半端ではありません。
・ 法律の変更が実に多いこと。 政府関係から自治体レベルまで、1日で25の法律が変わることもあると聞きました。
・ 港、道路などのインフラが不十分。ブラジルのインフラのランキングは144カ国中107位。アフリカのレソトやパキスタン、ニカラグアより低く、コロンビアの少し上といった位置づけです(The World Economic ForumのGlobal Competitiveness Report 2012-2013より)
・ 人件費や物価が高い
これらが「ブラジルコスト」と呼ばれるものの要素です。これは、日本企業に対してだけでなく、どこの国の企業も直面することなので、この環境を知った上で、ビジネスが成り立つようにすることが非常に大切です。

2)ブラジル人の社長は数社にとどまる 〜優秀な人材の確保について
ブラジルの日系企業は、現地の優秀な人材を確保できていない傾向があります。ある人材派遣会社によると、「日系企業にはブラジルの優秀な人材を紹介しにくい」「日本企業が求めるのは、自らアクションを起こすタイプではなく、従順、慎重な人材なのでマッチングしにくい」。
結果として、日系企業に就職するブラジル人は、上昇志向でキャリアを開拓していくタイプというよりは、一段落して安定を求めている状態の人材になりがちです。

また、日本企業で働いてトップまで昇進したブラジル人のロールモデルが少ないため、日本企業がそれほど魅力的でないと映るようです。統計によると、過去100年間で、日系ブラジル人が現地法人の社長になったケースは数社のみ。一方の欧米系企業では、米国ボストン銀行のトップを経てブラジル中央銀行のトップに就任したブラジル人がいるなど、豊富なロールモデルがあります。
日系ブラジル人は向上心が高く、教育水準が高いことで知られています。日系ブラジル人の割合はブラジル国内で1%以下と少ないのに、一流のサンパウロ大学の10%以上が日系ブラジル人なのです。にもかわらず、日本企業への就職をためらう日系ブラジル人が多いのは本当にもったいないことです。優秀な人材を確保するには、今後、日本企業も意欲ある(日系)ブラジル人の採用・登用に積極的に取り組んでいく必要があります。

3)ブラジル人をまとめるのは、ネコを群れにするように難しい 〜意思決定の方法
ブラジルでは、日本企業は意識決定が遅いことで知られています。これは文化的な背景からくるものかもしれませんが、日本企業は、予測可能な形を大切にしながら着実に進め、不確実なものを避ける傾向があります。また、日本には成果主義ではなく、ものづくりの職人的な文化があり、会社としても方法論、正しいやり方にこだわる傾向があります。

一方ブラジルは、状況が絶えず変化する社会ですので、それに合わせた意思決定のやり方をします。目標やゴールを明確に定めたら、そこへ到着する方法はいくらでもあるという考え方です。常に変わっていく環境に合わせながら自分なりの方法で良い成果を出せばいいという風に。「ブラジル人をまとめるのは猫を群れにするように難しい」と例えられるように、みんなで同じステップを踏んで行くというよりは、3人いればそれぞれの方法でやるので、日本人から見るとルールからはずれたり、バラバラに映るかもしれません。

ブラジルでは大きな目標を掲げ、それぞれの方法で動いていく人々を、責任のある人が見守るという形が取られることが多いようです。日本企業はレールを敷いて、同じレールの上をみんなで行くやり方が多いですね。これはどちらが良い、悪いということではなく、文化的な背景の違いから来るものだと思います。重視しているものの違いで、意思決定の方法も違ってくるのですね。

日本企業にできるのは、日本的な方法の優れた部分は残しつつ、ブラジルのやり方も取り入れて、現地法人や優秀な人材に、もう少し自由な意思決定権を与えるという方法かもしれません。たとえば、ブラジルに参入したばかりの段階では、日本本社からのケアやコントロールが必要だろうと思いますが、その後は参入段階にあわせて現地法人の裁量範囲を少しずつ広げるなど、段階に合わせていくことも提案したいと思います。