GIAリーダーの旅(松村卓朗)第6章:GIAリーダーとして:この国のために私は何ができるか/GIAとは私にとって何だったか

GIAリーダーの旅も、いよいよ終章を迎えた。旅を終えて、以下の3点に関する考えをまとめてみた。(研修では、フェーズ3で、旅やフィールドワークを振り返り、自身の考えをまとめ、参加者に共有する場を持つので、その機会を利用した。)

  • スリランカの教育への提言(と私の関わり)
  • スリランカの産業発展への提言
  • GIAリーダーの旅とは、私にとって何だったか

スリランカの教育への提言(と私の関わり)
フィールドワークにおいては、私はこの国の“教育”に焦点を当てた。教育水準が高いのは、初等教育(高校まで)であり、大学の数が(先進国と比較すると)極端に少ないため、よほどの人でない限り大学には行けない社会になっている。このことが、企業のミドルマネジメントが不足する・育たない原因を作っており、ひいては、企業のダイナミズムが生まれることを阻害している、という私なりの仮説を作った。

従って、この国の教育に関する提言は、「大学を増やす」ことだ。しかし、こんなことは、遠く離れた日本から来た日本人に指摘されるまでもなく、スリランカ人も気づいていて、憂いていることだ。ただ、誰もが「そんなこと、どうしようもない、仕方ない、できない」と言って、そのままにしているように見える。
スリランカの人たちにできない理由を聞いてみると、そこで述べられるのはだいたい次の3点に集約された。

  1. 「資金がない」というあきらめ
  2. 「(私立)大学を作る/増やすと、今後教育が無料でなくなる」「(私立)大学を作る/増やすと、優秀な人材でなくとも大学に入れるようになる」という懸念
  3. 「公務員等の特権階級が、構造改革を阻んでいる」という怒り

これらできない理由は、1つ1つクリアしていくしかないが、(1)「資金がない」ならとにかく、大学を有料化すればいい。私立大学も作るということだ。小学校から大学まで1円もかからないという仕組みを維持するがゆえに、学びたい/学べる人は多いのに大学を増やせないというのでは、本末転倒だ。みすみす外貨と頭脳を流出させることはない。
(2)「教育が無料でなくなる」という懸念に対しては、奨学金制度を充実させればいい。優秀な学生にとっては、何ら今までと変わらず、お金がなくても学べる仕組みを維持できる。「優秀な人材でなくとも大学に入れるようになる」ということについては、これは懸念ではなく、チャンスと捉えるべきだろう。大学は、一握りの、エリート中のエリートの、主としてトップ官僚やトップ研究者、医者等一部のプロフェッショナルだけを教育する機関という存在ではなくし、学びたい多くの人に門戸を開くということだ。
(3)「公務員等の特権階級が、構造改革を阻んでいる」という事実に対しては、政治改革が必要だ。しかし、政治腐敗は一朝一夕に変わるものではない。ただ、まずは、教育省を一本化することに注力して改革を図ったらよいと思った。高等教育省と一般教育省と分かれていると、(2)で述べたような考えが進まないからだ。高等教育省はエリート中のエリートを育てようとしてしまい、一般教育省は、小学校・中学校の教育の充実にのみ取り組んでしまう。何度も述べるように、この国の課題は「高等教育の一般化」なので、それが進むような教育行政に変える必要がある。

上記のような取り組みに対し、私自身ができることを考えてみたが、そう簡単に見つかるものではない。ただ、スリランカの企業の「ミドルマネジメント教育の充実」に資することならできるのではないかという考えに至った。我々の持つミドルマネジャー用研修プログラムを、スリランカ企業に提供していくということだ。パートナートレーナーとなって、スリランカで研修を提供してくれる人を探し始めている。

スリランカの産業発展への提言
教育だけではなく、この国の産業は結局、どのような方向性で考えていけばよいのかについても、私なりに色々と考えた。
スリランカという国は、率直に言って、この国に大きな魅力を感じ投資意欲を掻き立てられる外国企業(日本企業)は、決して多いわけではないだろう、と思わざるをえなかった。

まず、(隣国のインドなどと比較すると)非常に小さい国だ。市場としての魅力は薄い。電力やガソリンも(日本並に)高い。労働力は必ずしも安くはない上に、労働法が厳しい(従って従業員の解雇等は簡単にはできない)。生産拠点を築くには、あまりにも条件が厳しい。日本企業進出のためのサポートが少ない(日本の銀行や会計事務所などは全く進出していない)というのも、進出のハードルを高くしていると思われる。スリランカ進出の道は、独力で切り拓かなければならない。

何人かのスリランカ人とは、スリランカ国内の今後の産業発展についての意見交換をした。「今後の産業発展可能性や機会が大きい領域は」と言って話に出てくる産業は以下のような産業だったが、国際競争力を有し、国の核となる産業として考えるには、どれも魅力薄に感じた。

  • 農業:海外に売るにはブランド力がない。
  • 家電:外国企業が生産拠点にするには、(上述したように)インフラ条件が悪い。
  • インフラ:確かに内戦が終わったばかりで、道路等、社会のインフラ整備ニーズはあるものの、あくまでも国内の話で国際競争力とは無縁。
  • 観光:伸びてはいるが、国を支える産業と考えてよい域にはいっていない。

ちなみに国としては(政府のビジョンによれば)、「IT立国」を謳っている。しかし、とってつけたような話に聞こえた。必ずしも今現在強くない産業での立国は難しいのではないかと思う。むしろ、考えられる仮説として、「ファッション立国」という方向性などがよいのではないかと思った。

    • 女性が着ているサリー(という民族衣装)はとても美しい。この国の魅力の1つであり、世界に発信できるファッションデザインの基盤があるように見える。

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  • ゼロから産業を造るのはきついが、繊維関係産業ならこれまでに様々な蓄積がある産業クラスターのはず。ただし、単なる生産拠点ということではなく、より付加価値の高い領域での産業化を目指すのだ。(デザイナー、パタンナー、バイヤー等の育成に集中か)
  • 実際に、日本企業で最初にスリランカに進出したノリタケは、スリランカに進出した理由として「デザイン感性」と「まじめさ」に着目したと聞く。
  • 英語も多くの人ができるので、欧米のバイヤー等との連携も比較的容易に有利にできるのではないか。

ただ、コロンボなどの街を歩いていて、日常ファッションに興味を持つ(と思われる)人は非常に少ないように感じた。しかし、逆に言うと経済発展の余地は大きいということでもある。
ファッション立国という方向性はまた、スリランカのHDI(人間開発指数)を大きく向上させることにもつながるのではないかと思った。スリランカは、太った人や糖尿病患者(成人病)が多い。夜遅い時間の食事や、米の食べすぎが原因という。ファッションの感性を刺激することは、国家政策として一石二鳥なのではないかと思うのだ。東京・原宿の竹下通りなどのような象徴的なストリートを造る、などを試みたら面白いと思った。
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GIAリーダーの旅とは私にとって何だったか
最後に、このGIAリーダーの旅というのは、私にとって何だったかを、これまで全6回で述べてきた内容ではあるが、最後にキーワードでまとめておきたい。

  • (日本にいたら求められることのない)チャレンジの連続
    – ことが起きるスピード X 受けて立つ勇気(崖から飛び降りる)
    – 私の場合は、某企業でのミドルマネジメント層への英語でのWSファシリテーション、フィールドワークでのインタビュー、等
  • (日本では経験できない)価値観を揺るがす経験
    – 戦争の爪あと(道路がない、逆洗脳のワークショップとの遭遇、等)
    – 農村部・都市部でのホームステイ(自分はどういう人間で何でもってコミュニケーションをとれる人間なのかを考える機会)
  • グローバルリーダーとの出会い
    – マハボディソサイアティ高僧、Prf.Kim、石川さん、等
  • この国はどういう国でこの国のために何ができるかを、構造的に・具体的に考える体験
    – 国がコンパクトで、地理的に動きやすく、適切な考えるレッスン対象となった
    – 産業がモノカルチャー、産業発展を阻む要因等も比較的分かりやすく、社会構造等も考え易い
  • プリンシプルが問われ、プリンシプルを見直す経験
    – 仏教国であるがゆえ、接した人のプリンシプルを聞く機会/自身のプリンシプルを考える機会が豊富

この旅が私に大きなインパクトを残したことは間違いない。ただし、その成果は、私が今後の自身のリーダーシップにいかに活かすかにすべてかかっている。