【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】:第 20回 “ファイナンシャル・ドーピング”をしないバイエルン・ミュンヘンの選手獲得~プロ野球の日本ハムが取り入れ常勝チームに~

現在、サッカー選手で世界一の高給取りは誰だかご存知だろうか。

実は、メッシ(バルセロナ)でもクリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリー)でもない。

「スペインとヨーロッパフットボールの経済状況報告」(バルセロナ大学経済経営学部ホセ・マリア・ガイ教授)によれば、現在世界最高の選手と言われているメッシは1050万€で9位、Cロナウドは1000万€で10位にすぎないという。

最高額はエトー(アンジ)の2000万€だ。イブラヒモビッチ(PSG)1450万€、ルーニー(マンチェスター・ユナイテッド)1380万€、ヤヤ・トゥーレ(マンチェスター・シティ)1300万€、アグエロ(マンチェスター・シティ)1250万€、ドログバ(上海申花)1200万€、フェルナンド・トーレス(チェルシー)1080万€らが続く。(「Number」2012年10月6日号、「スポニチ」2012年7月11日号など)

金満オーナーをバックにつけた“成金”クラブへ移籍した選手ばかりが並ぶ。メッシやCロナウド以上に払うのだから、こうしたクラブの投資は常軌を逸していて、市場の相場を狂わせているように見える。サッカーのクラブ経営で近年相次いだが、オイルマネーなどの圧倒的な、しかし人工的な財力で優れた選手を補強することは、 “ファイナンシャル・ドーピング”と呼ばれている。

それにしても、欧州のサッカークラブチームの人件費は異常な水準になっている。前述の「経済状況報告」によれば、’10-’11シーズンの総収入における人件費の割合は、リーガ・エスパニョーラ(スペイン)で81%、プレミアリーグ(イングランド)は84%、リーグ1(フランス)では93%を占める。セリエA(イタリア)に至っては102%と、総収入以上の支出を人件費だけで費やしているのだ。

そのような各国のリーグの数字を見ていて目を引くのが、ブンデスリーガ(ドイツ)だ。平均人件費率は65%に抑えられている。

そのブンデスリーガに、バイエルン・ミュンヘンという“ビッグクラブ”がある。ブンデスリーガ通算49シーズンで最多の21回優勝していて、チャンピオンズリーグ(欧州一のクラブ決定戦)でも4回優勝という、誇るべき実績を持つ。

そして、さらに誇るべきことで、我々企業人が着目すべきなのは、ビッグクラブでありながら、堅実極まりない経営をしていることだ。驚くかもしれないが、そんなビッグクラブは他にないのだ。

欧州には人気も実力も高いビッグクラブがいくつかあるが、そのほとんどは実は赤字経営だ。例えば、昨年度の赤字額を並べてみると、マンチェスターシティーは237億円、マンチェスターユナイティッドは108億円、チェルシーは93億円と巨額計上している。バルセロナは97億円から24億円にまで減ったが、それでもまだ黒字に転換できていない。(出所:MSN産経ニュース 2012年9月15日)

社会的に経済状況が悪い中で(特にヨーロッパで)、サッカーの世界だけ年棒が上がる一方なのはやはりおかしい。それも、オーナー個人が投資する額に頼っていて、ロジックが脆弱な経営から資金が捻出されているというのは、極めて不健全だ。このような状況を放置できないと考えたUEFA(欧州サッカー連盟)は、赤字経営などを規制する“ファイナンシャル・フェアプレー”を段階的に来年から導入する。健全経営でなければチャンピオンズ・リーグやヨーロッパリーグから締め出されることになるようだ。

バイエルン・ミュンヘンは、1984年以来約30年、一度も赤字がないという。ビッグクラブの中で、バイエルン・ミュンヘンが堅実で健全な経営をできているのはなぜか。

なかなか一般情報がないので、その秘訣について俄かには明快なことが言えないのだが、ただ、サッカーのクラブ経営を安定させる一番の方策は人件費を抑えることのはずだ。どのようにして人件費を抑えながらも、欧州のトップたる強さを実現しているのか、いつか、私なりに解き明かしてみたいと思っていた。

そのような折、今年日本のプロ野球でパリーグを制した日本ハムは、バイエルン・ミュンヘンの人材評価法を野球界に取り入れたことが躍進の秘訣ではないか、という記事を目にした(出所:「Number」 2012年10月25日号)。バイエルン・ミュンヘンの秘訣に少しでも迫りたいという思いで、日本ハムを調べてみた。

そういえば、日本ハムは、Jリーグ・セレッソ大阪の社長だった藤井氏が昨年まで球団社長をやっていた。Jリーグとプロ野球の社長を両方経験した唯一の人物だが、’06年に日本ハムに来た際に、セレッソ大阪時代に学んだバイエルン・ミュンヘンの仕組みを導入したという。

日本ハムといえば、確かに弱小球団だった。’06年以前、日本ハムは24年間も優勝していない。2年連続で勝率5割を超えたこともなかった。5位か最下位に終わったシーズンが11年もあった。

それが’06年、25年ぶりの優勝を果たすと、それを境に常勝球団への変貌を遂げた。6年連続でクライマックスシリーズに進出している。今年はパリーグを制し、日本一までもう一歩だった。

日本ハムが他チームと大きく異なるのは、この7年間、FA(フリーエージェント)選手をとっていないという点だ。そもそも争奪戦にすら加わっていない。FA選手というのは、ベテランで既に実証された力を持つが、獲得に莫大なお金もかかる。

それでは、FA選手を取らずに誰をとっているのか。今年は、ダルビッシュ選手が抜けたというのに、補強は、新人ドラフトかトレード、あるいは高くない外国人を見つけてきている。

つまり、ありきたりな補強をしていないのだ。人件費を膨張させず、抜けた穴を埋めるのに、新人やそう高くない選手を当て、そして活躍させることに成功しているとは、見事というほかない。

その成功には、選手を獲得する際に秘密があるという。選手評価をベテランスカウトの判断力に頼るのではなく、選手能力を細分化して、点数化しているという。そこでは、技術面のみでなく、精神面の強さも評価の対象らしい。また、すべての項目を同等に評価するのではなく、項目によって軽重をつけている。とりわけ、私が大変興味をそそられたのは、「他人から学ぶ姿勢」、「チームに溶け込む能力」といった性格面まで、選手評価の重要なポイントにしているという点だ。

確かに、言われてみれば投資対効果を最大化させるためには当然のことで、見極めるべきは、あくまでもこれまでの実績や現在の力だけではなく“ポテンシャル”や“成長スピード(可能性)”、本人の持つ力だけではなく“チームへのフィット”のはずだ。こうした点に関して、人材獲得の際、どれだけのチームがきちんと見る目を持っているのだろうか。

限られた資金の適切な資源配分を考え、その選手がどれだけ活躍するかということを見極めるのが、フロント(経営陣)の仕事のはずだ。しかし、野球でもサッカーでも、現状の経営状態や人材獲得の仕方を見ると、仕事をきちんとできている経営陣は多くないということだろう。

さて、一般企業においては、我々はどれだけできているだろうか。