GIAリーダーの旅(松村卓朗)第2章:チャレンジ体験‐スリランカでの研修講師デビュー

M社会長R氏との出会い

スリランカに着いて、3日目のことだ。

この日は、スリランカ最大の都市コロンボに滞在して、いくつかのスリランカの現地企業や省庁などを順に訪問し、意見交換や情報交換を行っていた。

この日最後の訪問先は、セイロンティーの製造・販売会社から、テレビ局の運営会社まで持つコングロマリット企業であるM社だった。会議室に通され、出てきたのは会長のR氏だった。

我々は1人ずつ自己紹介をしていったが、このGIAプログラムには、電機メーカーX社のKさんが参加していた。彼は自己紹介がてら、持ってきていた社内報を元に自社の概要説明をした。社内報のあるページに、スマートシティ構想の特集記事があった。太陽光パネル等でスマートハウス化された家の写真が載っていたのが、R氏の目に留まった。「ちょうど家を建てたいと思っていたんだ。これ建てるのにいくらかかるか教えてくれ?」と言う。そして、すぐに見積りがほしいという話に展開していた。

Kさんは電機メーカー勤務であって、関連会社のハウスメーカー勤務では決してない。しかも、会社では本社で経営企画を担当していて、営業ですらない。

しかし、当然そんなことはここでは関係ないのだ。Kさんは、戸惑いながらもすぐにハウスメーカーの担当者に連絡をとっていた。スリランカで施工する場合には日本で行う場合と条件が異なり、難しい判断の積み重ねが必要だったと思うが、数日後には日本と相談して作成した見積りを持ってR氏に説明に行っていた。

新興国で仕事をしようとする、日本の多くのリーダーに最も必要なのは、ある意味、本質はこれだと思った。「自社を代表して来ている」という強い自負、もっと言えば「日本を代表して来ている」といった責任感だ。どんなに日本では有名な大企業に勤めていようが、相手は知らない。目の前にいるその人だけを見て、信頼に値するかどうかを決める。だから、「担当から連絡させる」だの、「(今は研修中だから)日本に戻ってから対応する」だの、では話にならない。自分自身の力一つで、スピード感を持った責任ある対応ができるかどうかが試された。

X社のKさんは、その一連の対応と対話で、R氏から絶大な信頼を掴み取ったようだ。最後には「あなたは私にとって大切な人脈の一人だから、いつでも個人的に遊びに来い」という言葉をもらったと言う。(その後、家が売れたかどうかは、まだ聞いていない。)

後で知ったことだが、会長のR氏は、スリランカでは多方面に大変に影響のある人で、長者番付でも一桁に出る人らしい。

スリランカの旅は、人脈社会であるスリランカと、現地のコーディネータを務めたHemmaとAmbiのその社会における人脈形成のすごさとを、日々感じる旅でもあった。

このGIAプログラムは、「この国に対して、本業を通じて、あるいは自分は何ができるか」を考え抜くプログラムだ。従って、2週間という短い滞在期間中に、この国を一周りすることに加え、この国について考えるのに必要な材料を提供してくれる人たちと一通り会うことができないと成り立たない。実際、スリランカを代表するいくつかの企業のトップに、財務省等主要省庁の高官に、政治家に、仏教の高僧に、大学教授にと、最初の数日間だけでも、この国の要人たちに会って意見交換ができた。首相官邸も訪問し(残念ながら首相は体調を崩して入院したということで)、秘書を務める首相の娘さんとの対話を行った。

さらに後半のフィールドワークでは、コーディネータ達は「誰に会いたいかを言ってくれ。我々の人脈を使ってどんな人であっても何とかするから。」とまで言ってくれていた。実際、私自身のフィールドワークテーマの検証のために「教育省の高官に会いたい」と言ったら、次の日にはセットしてくれた。一緒に行った弊社のコーディネータ山口は、「真のコーディネータとは、こういうことができる人のことだ。」と痛く感激していた。

突然の研修依頼

M社会長をアレンジしてくれたのは、単に有力者だというだけが理由ではない。この人と会うと予定していないハプニングが起こる、即ち我々にリーダーとしてのチャレンジが促される、という人を選んでくれていた。

会長のR氏からは私も、「ところであなたは何をやっている?」と聞かれた。

「私はPeople Focus Consultingという組織開発・人材育成の会社の代表をしている。多くの日本企業のリーダー達に対して、リーダーシップ研修などを提供している。。。」と自己紹介した瞬間だった。

「いつまでいるの?」と聞かれ、「来週末まではいる」と答えたら、「それなら来週マネジャーを20人くらい集めるから、是非研修をやってくれ。」と言う。

「Duration(時間はどれくらい必要か)?」と矢継ぎ早に聞かれて、「Two hours(2時間なら)」と答えた瞬間のことを今でもクリアに思い出せる。答えるまでには、様々なことを逡巡したのでおそらく3秒ほどを要したが、非常に長い時間に感じた。

すぐに会長のR氏は、「おい、HRのディレクターを呼んできてくれ」という指示の社内電話をかけていた。すぐに現れたHRディレクターとHRマネジャーと握手を交わし、私は、ここを訪れてまだ30分と経たないうちに、別室で来週行う研修の企画会議を行っていた。

私自身、戸惑いがなかったというと嘘になる。不安も小さくなかった。「スリランカで研修を行うなんてもちろん初めてだ。私は流暢ではない英語力しか持っていないから、やるとなったら相当の準備が必要だ。しかし、そもそも、GIAリーダープログラムで全国を旅している最中だから満足な準備もできない中で、質の高い研修が提供できるだろうか。断った方がよいのではないか。」正直、企画を意見交換しながら、葛藤は続いていた。

HRディレクターのS氏に、「しかし、御社の会長の動きはあまりにもスピーディで、あなたも振り回されて大変ですね。」と声をかけた。共感を得ようと思ってかけた言葉だったが、返ってきた言葉は予想を反した。「とんでもない。こうやって、色々な機会をくれる。日本の質の高い研修を我々のマネジャー達に提供できると思うと、とても嬉しい。」と言う。

私は、腹をくくることにした。一緒に来た研修生達には、何が起こってもチャレンジしようと言ってきた。GIAリーダーとしてはどんなことがあっても逃げない姿勢が問われる。また、ここスリランカで研修の講師として立ち、現地企業のマネジャー達と接する機会を得るのは、スリランカを知る上で願ってもない大きなチャンスでもある。

HRの彼らと話し合い決めたテーマは「Team Leadership~How to build effective team through leadership among Japanese companies~(日本企業では、いかにしてリーダーシップを通じて効果的なチーム作りをしているか)」だ。

弊社のコーディネータの山口も、「せっかくの機会なので、自分も是非立たせてほしい」と言うので、途中出番を作ることにした。GIAリーダープログラムでスリランカ全国を回りながらも合間を縫って、コンテンツを練り上げ、分かりやすい英語表現を考えていった。

“Had fun and totally different experience …” というFBに涙が出た

朝8:30。24人のマネジャー達が緊張の面持ちで座っている。スリランカの人達はとても行儀がよく、“先生”と呼ばれる人を敬う様子が見てとれる。

「Good morning, everybody. My name is Matsumura. Call me “Machan”(まっちゃんと呼んでください)」という挨拶から始めた。皆が緊張から解放されて相好を崩したので、アイスブレイクは成功したと思った。

実は、スリランカ入りした次の日に、私はニックネームをMachanに決めた。初めて会う人達に自己紹介をした際、Machanと言ったらその場にいた人たちがどっと沸き立った。Machanというのは何か変な言葉かと一瞬焦った。しかし、スリランカの言葉(シンハラ語)で“大親友”とか“ソウルメイト”という意味らしいのだ。しかも男の人にしか使わない言葉だという。

研修でのメッセージは、日本企業の強さは現場のチームリーダーの力に支えられてきたこと、チーム運営をリードする際にコンセンサスを重視していること、多くのチームリーダー達にはそこでコンセンサスビルディングのスキルが求められること、等が柱だった。

若干のプレゼンテーションに加え、ゲームと振り返りを通じて気づきを得てもらう形式で行った。我々がこれまで築いてきたお馴染みのワークショップスタイルだが、スリランカでは、研修といえばまだ“じっと座って先生の話を聴く”というもののようで、とても珍しい楽しい体験と感じてくれたようだった。

研修を通じて、多くの日本企業が学び力を入れている「チームリーダーシップ」というコンセプトに、大変興味と関心を持っていたのが感じ取れた。

研修に参加した人からのアンケートとコメントを、帰国してからHRマネジャーが送ってくれた。

“This kind of session needs to be conducted for extended period of time…this is a very useful programme…” –Production Manager-

“It is an eye opener to see the improvements & importance of individual and team leadership, also the impact it could contribute to the organisation “-Administration Executive-

といったコメントは、私にとって宝になった。今後スリランカでビジネスを展開する際のモチベーションの源泉にもなってくれるはずだ。本当にチャレンジしてよかった。

何より嬉しかったのは、研修終了直後に、参加した全員が握手を求めてきてくれたことだ。全員が握手を求めてくれることなど日本ではそうないことで、私は涙が出そうになった。その際皆に「是非Machanと呼んでくれ」と言ったのだが、残念ながら「とんでもない。先生に対して使う言葉ではない」と言われた。