【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】:第16回 観客を動員する工夫~Jリーグのチームの試み

この稿が出る日の未明には、EUROの決勝が行われ、スペインとイタリアのどちらかがヨーロッパの頂点に立っているはずだ。EUROとはもちろん、欧州統一通貨のことではなく、4年に1回開かれるサッカーの欧州選手権だ。「ブラジルとアルゼンチンが出ないW杯」と言われることもある。力がハイレベルで拮抗しているヨーロッパの国々しか出ないために、どの試合を見てもW杯よりもレベルが高いと楽しみにしているサッカーファンは多い。

連日未明3:30からの試合が多く私も睡眠管理には苦労したが、やはりスペクタクルな試合が多く、日本代表が出ないので精神衛生上は安心して純粋にサッカーそのものを楽しむことができた、至福の1ヶ月だった。

毎試合超満員で、観客のエネルギーも画像から伝わってきて圧巻だった。今回はポーランド-ウクライナでの共催で、例えばウクライナではマクドナルドのハンバーガーを買うにも別の場所でバウチャーを買ってから持ち込まなければいけないなんていう、とても不便なことがたくさん起こっていたようだが、試合が見れるのであればどこまでも行くとばかりに本当に多くの観客がヨーロッパを大移動していた。

そう言えば、先日ある人から、「君は最近はスタジアムに足を運ばなくなったね。サッカーの試合はやはりスタジアムで観戦しなければ。」と、ぐさりとなる一言を言われた。最近は忙しくて、と言い訳するしかなかった。今回は、その懺悔というわけではないが、もっと観客を動員するにはどうすればよいのかを考えてみる稿にしたいと思う。

EUROを見ていると、「強くなる。そして素晴らしいゲームをする。」ということに尽きるとさえ思えてしまう。

しかし、本当にそれ以外の方法はないのだろうか。

Jリーグ屈指の観客動員を誇るチームをご存知だろうか。昔から熱狂的なコアなファン層を持つ浦和レッズが守り続けていたJリーグ年間観客動員トップの座を、J1に昇格した2004年に初めて奪取し、それ以降も動員数では1位か2位をキープし続けているチームがある。なんとアルビレックス新潟だ。

FC東京やガンバ大阪のように大都市にあるわけでもない。強くもなく、弱くもない。強ければ“上位争い”でフォーカスされるし、弱ければ“降格争い”でフォーカスされるが、従ってメディアにも取り上げられづらい。イケメン選手やスター選手がいるわけでもない。従って黄色い悲鳴もない。

では、どうやって観客を動員しているのか。なんと、「無料チケットを配布しスタジアムを満員にする」から始めて、それが決めてだったというのだ。無料チケットを始めた2001年には何と、9割の入場者が無料チケットによるものだったという。しかし、一度足を運んでスタジアムで見るサッカーの面白さと、満員のスタジアムで我がチームを応援する興奮を知った人たちは、それ以降無料でなくとも足を運んで見に来る。しかし単に無料にしてばら撒くだけなら1回で終わってしまう。だから例えば、小中学生は無料でも同伴の家族からは料金を取るようにしている。だから例えば、子ども料金を高校生までに広げて、サッカーに興味を持った少年少女たちが、小遣いの範囲で観戦できるようにしている。長い目で見て、観客動員の好循環を作り出すことを大切に考えてきたという。

先日はまた、横浜F・マリノスの社長嘉悦さんから、集客に関する話を伺う機会があった。東日本大震災が起こった昨年は、残念ながら観客動員数は伸びたわけではなかったけれども、Jリーグのすべてのクラブで軒並み大幅にダウンした中でその減り幅は最も小さかった。こつこつと行ってきた企業努力が実を結んだとおっしゃっていた。

何をやったかと言えば、マーケティングの基本的な考え方に則り、1)認知してもらう→2)興味をもってもらう→3)スタジアムに試合を見に来てもらう→4)試合を楽しんでもらう→5)リピーターになってもらう、というこの1つ1つを愚直に高めていく努力をしただけだという。

例えば、スタジアムのある港北区民のほとんどが、実は「今日、マリノスの試合がある」ということすら知らない。認知してもらって、興味をもってもらうための活動の余地はふんだんにあったという。そこで、中村俊輔選手をはじめとするマリノスの選手達が、港北区の小学校を1つ1つ回って、年間スケジュールの書いてある下敷きを配っていくような活動を丁寧に行ったらしい。区役所すらも、こういう活動ならと大いに活動をサポートしてくれたという。職員全員が試合のある日にはマリノスのユニフォームを着てくれたらしい。

また、これまでは、こうした活動をなぜ選手がやらなければいけないのかを理解できていなかった選手も少なからずいたという。サッカーだけをやっていればよいのではないかと考える選手は、もちろん一生懸命小学生と触れ合うはずもない。あるいは同様に、チケットを売る人はチケットを売ることだけが仕事、グッズを売る人はグッズを売ることだけが仕事だと考えていたという。1)から5)までの活動に便宜上部署や役割を分けてはいるものの、全員が目的は1つということを理解できてからは、組織としての成果が大いに生まれてきたと、嬉しそうに語られていたのが印象的だった。

営業を担当するスタッフの中には、「横浜には、野球の横浜ベイスターズがある。八景島シーパラダイスといった娯楽施設も数多くある。他に競合が多い。」と集客をあきらめてしまっていた人も多かったという。しかし、“敵”と考えるのではなく、“味方”と考えよういう発想の転換を図ったことが昨年までとの大きな違いだったらしい。横浜ベイスターズや八景島シーパラダイスで宣伝するようにしたら、かえって大幅な集客につながったというから面白い。

地方のJ2クラブの試みを特集した新聞記事が目に留まった。特に高校生・大学生層を取り込むことに力を入れ、「チームは自分達のものだ」と思ってもらうことを目指している、徳島ヴォルティスに関する記事だ。

『昨年のJリーグ観戦者調査によると、観戦者の平均年齢は38.6歳となっている。
年齢層を見ると11~18歳が全体の6.9%、19~22歳が5.7%。10年前はそれぞれ12.0%、11.4%だったのだから、 大学生までの層のJリーグ離れが進んでいることになる。

では、若い層をスタジアムに引きつけるにはどうしたらいいのか。 J2徳島ヴォルティスは「実際にクラブにかかわってもらうのがいいのではないか」と考えた。 そこで「スタジアム学園祭」というイベントを2010年から始めている。

高校、大学生にプロデュースを任せて、Jリーグの開催日にスタジアム周辺で「学園祭」を催してもらうという企画で、 2回目の昨年10月は徳島県内の1高校、5大学が参加した。
小松島西高によるエコキャンドルづくりコーナーやファッションショー、徳島大による体力測定、四国大の阿波踊り、 徳島文理大のLED工作コーナーなど出し物は多彩で、200人を超える学生の力を結集して、にぎわいをつくった。
企画・準備の段階では高校生に主体的にかかわってもらい、大学生にサポートしてもらう形をとった。

「こうやってクラブにかかわってもらうことで、ヴォルティスは自分たちのものだと思ってもらえるのではないか」と新田広一郎社長は予測する。 いわば祭りを演出して、地元の人の触れ合いの場を築いたのだ。 「郷土愛が培われるかもしれない。たぶん彼らはこの経験を仲間に語ってくれる。そうなれば、クラブに目を向けてくれる支持者がさらに広がる」
と新田社長は話す。だから今後も企画を継続し、若い層をクラブに巻き込んでいきたいという。

この企画にかかわった学生が今春、クラブに入社したという、おまけまでついた。』

(出所:日本経済新聞平成24年3月28日)

昔、スペインを旅行したときに聞いた話を思い出した。

ベティスという小さな町をホームタウンとする、しかし地元の人達の熱狂的な応援で、いつもスタジアムは満員になるというクラブチームの話だ。

生まれる前からファンだという人が多い。なぜなら、生後、市役所に出生届を提出する前に、ファンクラブへの登録を先にすます親が多いからだという。スタジアムのグランドの芝が枯れて枯れて困っている。なぜなら、「死んだら自分の灰をこのグランドに撒いてくれ」という遺言を遺す人があまりにも多かったからだという。

私も久しぶりにスタジアムに無性に足を運んでみたくなった。