ASTD2012報告(山田奈緒子)

5月6日~9日にかけてUSコロラド州デンバーにて行われたASTD(American Society for Training and Development)の2012年度International Conferenceに参加してきました。

本年度は、”Learn something new, perform something extraordinary”というテーマで、ジェネラル・セッションに「ビジョナリー・カンパニー」のジム・コリンズ、「ミスター・イノベーション」のジョン・カオ、新進気鋭の心理学者ハイディ・グラント・ハルバーソンという豪華な顔ぶれが登場し、360のコンカレント・セッション、エキスポ参加企業300社という大きなカンファレンスになりました。

全参加者9000人あまりのうち米国外からの参加者数は2100名だったそうで、4分の1弱がアメリカ人以外の「外国人」の集まりだったことになります。セッションでは参加者同士で演習やディスカッションをする局面が多々あり、早口の英語での指示がわからず戸惑うようなときに、サウジアラビア人、韓国人、中国人、トルコ人といった「外国人」同士で助け合うチャンスが何度かあり、そこからとてもよい意見交換やネットワーキングをすることができました。

 

ASTD2012のトレンド

 カンファレンスでは360ものセッションが同時開催(コンカレント)されており、実際に参加できるセッションはほんの一部です。その上今回ASTD初参加の私が、今年のカンファレンスのトレンドを語る、というのはなかなかに乱暴なことですが(そして毎年のように参加しておられるベテランの方はおそらく別の見方をされるであろうことも承知の上で)、あえて今回の特徴を考えてみようと思います。

 (1)Global Human Resource Development(グローバル人材開発):海外勢の事例紹介
Global Human Resource Developmentは、今年から新たに設けられたテーマだそうで、まさに新潮流の分野です。ここでは米系企業に加え、タイ、韓国といった海外企業の事例紹介が目立ちました。私は実際に、タイのサイアム・セメント・グループの事例紹介、韓国の現代自動車の事例紹介に参加しました。両事例ともに、国内重視からグローバル化へ、コモディディ商品から高付加価値サービスへといった変革に直面し、包括的な取り組みを行っていました。コアバリューを見直し、人材プロファイルを再定義、ビジネスユニットを巻き込みながらコンピテンシーに落とし込み、研修などの人材育成施策に落とし込みながら変革を推進するプロセスが具体的に紹介され、非常に質の高いセッションでした。すばらしい点は両社ともに、グローバル人材の育成だけに焦点を当てるのではなく、グローバル化を推進する組織風土への変革を視野に入れた取り組みを展開しており、いまやグローバルODは世界共通の取り組みであることを痛感しました。

さらに大きな特徴として興味深かったのは、両社ともに、国民的・組織的文化を十分に勘案した取り組みの設計を行っていたところです。サイアムグループの変革活動では、タイの国民性を鑑みて、「いかに社員が危機感や不安を感じることなく(燃えさかる甲板にいることを実感せずに)、変革行動をとるように仕向けるか」を大命題としたとのこと。なるほど、穏やかで「問題ない」ことを重視するタイ人社員にとって、変革の第一ステップである「危機感の共有」は不安感を煽ってモチベーションを下げるだけということなのでしょう。ボトムアップであらゆる階層の社員が対話をもつ機会を多用したとのだそうです。

韓国の現代自動車の方は、強いトップダウンでバリュー浸透を行っていました。研修以外にも、運動会や遠足のような場面で新たに策定したコアバリューを、おそろいのジャージを着た社員が寸劇で表現している場面が映像で紹介され、アメリカ人が興味深そうに眺めていました。

グローバルODは世界共通言語であるけれど、埋め込まれた文化の中で進化する一つ一つの組織にふさわしい取り組みを設計することこそ、私たち組織開発に携わる者が日々知恵を絞るべきところだと改めて教えられました。

ところで、昨年までのASTDでは、韓国のサムソングループの事例紹介が多かったとのこと。来年は、中国やインド企業の事例紹介が増えてくるのでしょうか。

 

(2)Learning Technologies(ラーニング・テクノロジー)
Learning  Technologiesの分野では、グローバル・バーチャルクラスで研修を行う際の設計や運営のノウハウ、SNSやスマートフォンを活用した学習の事例が数多く紹介されました。この分野の最新動向は「モバイルラーニング」。集合研修、Eラーニングの延長上にあり、社員一人ひとりが求めるニーズに応じて深い情報提供を可能にするもの、と位置づけられていました。

ここでのキーワードはジェネレーションYです。1985年以降に生まれ、タブレットやモバイル機器を学校の教室で使ってきた若い世代は、仕事においてもモバイルを手から離さず、情報を求め、学習意欲が高いという特徴があります。若手優秀人材のタレントマネジメントにおいて、モバイルラーニングはもはや学習の一手法ではなく、組織がもたざるを得ない能力である、とまで表現されていました。ユニシスユニバーシティ、Hert、Qualcommが先進事例として紹介されていました。

 

(3)Measurement, Evaluation, and ROI(研修の効果測定指標、評価、ROI)
研修効果の浸透施策としてPFCでも力を入れている効果測定は、ASTDのコンカレント・セッションでも1テーマとして取り上げられています。4段階モデル(満足度、理解度、行動変化、組織成果の4段階)の生みの親であるドナルド・カークパトリックの昨年の引退を受けて、後継者であるジェームズ&ウェンディ・カークパトリックが、ROE(Return On Expectations)という概念を打ち出し、一連のセッションで紹介していました。研修の成果を具体的に示すことは、人事専門家の永遠のテーマといえるでしょう。

私が参加したセッションでは、リーダーシップ開発を効果測定指標に落とし込むステップが紹介されました。①ビジネス戦略上優先すべき課題を明確にする→②ESサーベイなど社内に既に存在するデータを探す→③新たなデータを作る→④リーダーの現在の価値を見極める→⑤データを金額換算する→⑥比較対象を決める、という明快なステップ。

PFCでは、研修を通じて何が達成されるとよいのか、という議論をクライアントと共に行うことを大切にしてきましたが、研修の狙いとビジネス戦略との紐付けこそが鍵であることを再認識しました。