【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】:第15回サッカーのアイスブレイク~遊びながら絆を深めるトレーニング

「アイスブレイク」というのは、組織開発や人材開発に携わる人達にとっては、今さら何の説明の必要もないだろう。ファシリテーターにとっては既に常識になっており、ファシリテーションを行う様々なシーンで使われていると思う。サッカーの世界でも、実は大いに活用されていることを私は最近知った。『サッカーアイスブレイク集~遊びながら絆を深めるトレーニング』なる専門書まで出版されていた。

Jリーグの各チームはもちろん、年代別の各日本代表チームまでが取り入れているらしい。最近では、少年少女のチーム作りやトレーニングには欠かせないメニューになっており、コーチ達が色々と研究しているようだ。私が少年時代にサッカーをやっていた頃には、アイスブレイクなんて言葉も聞いたことがなく、もちろん練習では一度も経験したことがない。体のウオーミングアップはあっても、心のウオーミングアップはなかった。

既に常識になっていると言ったが、あらためてアイスブレイクとは何かを整理してみると、サッカーの世界では、「行動社会化経験=Action Socialization Experience(ASE)」のプログラムの“導入部分”として位置づけられるもの、と定義されている。ASEとは、一人では解決できない精神的・身体的課題に対して、グループ全員が協力してその課題に取り組む課題解決ゲームのことだ。課題解決過程において、グループ内のコミュニケーションが活発になり信頼感や協力性が生まれるとされる。

ASEは、さらにアイスブレイクとチームビルディングとに区分している。アイスブレイクは、短期的かつ簡易的に行われるもので、初期段階の仲間作りとして位置づけられ、人間関係を円滑にするもの。一方チームビルディングは、ある集団に対し長期的に働きかけて組織を作っていくもので、同じ思いを持ってゴールに向かって進む、より進化したチーム作りのためのものを指す、とされている。(出所:JFA福島アカデミー)

言わば、「簡単にできる、アクションを伴った、チームワークが必要な、問題解決のゲーム」なので、サッカーなどの集団スポーツにとっては、とても親和性が高く、活用の意義が大きいのだろう。サッカーの世界でどのように活用されているかを知ると、我々がアイスブレイクを活用する際のヒントも得られると思い、この機会に色々と調べてみた。

『サッカーアイスブレイク集』によれば、サッカーにおいてアイスブレイクを適用すると効果的なのは、個々人の中に“心理的な壁”ができている、次の3つ場面ということだ

  1. 参加者同士で感じている心理的な壁:代表選手が集まったとき、スクールが開講された直後など。周囲の人はどういう人だろうと、漠然とした不安を抱えているとき。
  2. コーチに対して感じる心理的な壁:知らないコーチと接する不安があるとき。教わる立場であるとの思いが強く出すぎるあまり、コーチの言動に対して萎縮してしまっているとき。
  3. その練習や集まりに対して感じる心理的な壁:敗戦を引きずり、何らか気後れしていたり、後ろ向きな感情が生じているとき。あるいは、試合前で、緊張が強いられているとき。

Jリーグの各クラブが開発し、実際に行われているというメニューを見ていると、「じゃんけんボールタッチ」とか、「ラジコンシュート」とか、「心のキャッチボール」とか、名前を見ただけでも試してみたくなってくる。

Jリーグ技術委員長の上野山氏は、こうしたJクラブが開発したアイスブレイクを、育成年代を指導する全国のコーチ達にもっと活用してほしいと、メッセージを送っている。そのメッセージの中で、「メニューにはさらにアレンジを加えてほしい」と言っている。アレンジというのは、例えば、

  • 目隠しをする:感覚の制限
  • 手をつなぐ:動きの制限
  • 言葉を用いない:情報伝達の制限

といった制限を加えることを推奨している。こうしたアレンジによって、制限された領域を補完するためのアイデアが出てくることにつながり、子供たちの可能性を広げることになり、サッカーをより楽しめるようになるはずという考えを示している。

また、私が大変興味深いと思ったのは、昨年のU-17ワールドカップ日本代表チームを率いた吉武監督の話だ。彼は、メキシコで開かれた世界大会で、試合がある日の午前中はアイスブレイクに時間を割いたと言う。5試合すべてでやったらしい。特に、次のような考え方を大事にしていたという。

  • 普段のサッカーの場面ではリーダーでない選手がアイスブレイクではリーダーになれるように気を配る。力関係を逆転する場面を作る必要があると考え、そうしたアイスブレイクのメニューを組んできた。いつもの“序列”にはならない種目にしたり、運に任せるような内容のもの。あるいは、サッカーの能力が高ければ高いほど不利になるようなメニューを活用する。普段イニシアチブをとらない選手がイニシアチブをとれるようにするわけだ。そうすることで人間関係はもっともっと活性化していく。
  •  「分からなくても悩むな」というのがチームコンセプト。「どうすればいいか分からなかったら走れ」「分からなくてウジウジするんじゃなくて、分からなくても何かやろうよ」といったメッセージを体感できるアイスブレイクをやった。
  • メニューの中に面白さを入れるためには、チームで競わせるといい。そして、そこにちょっとした遊び心を入れる。よくやるのは、負けたチームに土下座をさせて、「参りました」と言わせる。屈辱的なことだが、チームでやるから薄まるし、明るく前向きに「次は負けないようにしよう」という話が出る。そこでポイントになるのは、土下座のやり方をコーチ達がやってみせること。コーチ自身が心を開いてプライドを捨てるというのがすごく大事。

アイスブレイクというのは、(上述したように)「グループ全員が協力してその課題に取り組む課題解決“ゲーム”」であるが、あらためて、たかが“ゲーム”だがされど“ゲーム”、という認識を強くした。チームを強くするためにサッカー界がこれだけ研究しているのだからファシリテーターとしてはもっと研究して発信せねば、という気持ちになった。

最近、仕事にもっとゲーム性(遊び)を取り入れることに力を入れたら、仕事はもっと面白くなるし、メンバーのモチベーションも高まるし、チームの一体感も生まれるのではないかと感じることが少なくない。多くの組織の人達の話を聞いていると、業務にあまりにも真面目に真正面からだけ取り組みすぎることが、ひとりひとりのストレスを溜まったまま解消に向かわせず、また、組織の閉塞感を生む一因になっているのではないか。

玉子屋という、1日7万食超のお弁当を4000社に配達する仕出し弁当屋がある。地元のやんちゃな若者(元暴走族や、元不良等)だけを採用し、コンビニなどではお弁当廃棄率は約2~3%といわれる中、0.1%というムダのない、効率的な業務運営を実現していることで有名になった会社だ。

以前、玉子屋の会長は、テレビ番組で、「うちの社員は、仕事は遊びの延長、ゲーム感覚でしか捉えていないはずだ」と語っていた。「モチベーションが低い、やりがいが感じられない、といった社員がいるということで、多くの会社が悩んでいるが」と言う司会者の振りには、「意味が分からない」とまで言っていた。会社は21の班で構成されているというが、おそらく、廃棄率をゼロにするにはどうするか、12時までにすべての顧客を回り切るにはどうするか、といった仕事の1つ1つを、まるでゲームを攻略するように、楽しみながら競いあっているのだろう。

少年の頃、私の時代ではサッカーでアイスブレイクなど経験したことはなかった。練習では「遊んでるんじゃないんだぞ」と言われ続け、試合では「ミスをするな」と緊張を強いられ、高校を卒業する頃には実はサッカーを嫌いになった。

しかし今、多くのコーチがアイスブレイクを用いて、サッカーに遊びを取り入れ、心を解かす努力をし、それをチーム作りに活かしていることを知って、とても嬉しくなった。

そして、小学生や中学生や高校生に戻って、あの頃のメンバーとチームを作って練習するとしたら、“プロのファシリテーターとして”どんなアイスブレイクをどのように取り入れるかと一人想像を膨らませていたら、とても楽しくなってきた。