【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】:第13回サッカーから中国を知る~岡田監督の中国サッカーへの挑戦

岡田武史サッカー前日本代表監督が、今年から中国のクラブチーム、杭州緑城の監督に就任した。間もなくシーズンが始まるが、中国プロサッカーリーグ“スーパーリーグ”初の日本人監督として、1年契約で指揮を執る。
サッカーは世界随一のスポーツであり(ちなみに、FIFA、即ち国際サッカー連盟加盟国は、国連加盟国より多い)、“世界の共通語”とまで言われているが(実際に私も、若い頃から、世界各国の人たちとサッカーを共通の話題にして会話を紡いできた)、しかし、国や地域、歴史や文化によって異なることは多い。サッカーの漢字表記は、日本語では「蹴球」だが、中国語では「足球」となる。中国のサッカーは日本のサッカーとはやはり何かしら違うのだろう。今回の稿では、この機会に、中国サッカーを取り巻く状況について知るとともに、サッカーを通じて中国文化の一端を感じ、中国社会のあり様に考えを巡らせ、そして、何より岡田監督の挑戦がどのようなものなのかを理解することを目指したい。岡田監督の挑戦には、我々が中国での組織マネジメントを考える際のヒントが隠されているはずで、大いに参考にしたいと思った。
序)中国のサッカーを取り巻く環境
いま中国のプロサッカーを取り巻く環境は、実は大混乱の最中にある。2012年2月末現在、八百長事件で懲役刑を含む多数の逮捕者が出たばかりなのだ。これまで、サッカーの闇賭博が横行していたらしいが、当局が摘発に乗り出し、今、政府は史上最大規模の犯罪撲滅運動を展開している。共同通信などによると、逮捕者は、


中国サッカー協会の元幹部らや、中国サッカー界で審判の第一人者といわれた2002年の日韓ワールドカップで主審を務めた審判員、地方政府の役人、クラブ関係者や選手などを含み、30名以上にものぼっているという。
やらせが拍車をかけた形になっているが、それ以前に中国サッカーの実力と人気の凋落は著しいようで、特に最大の懸念は「将来の担い手の減少」だ。この問題には、サッカーをやらせるぐらいなら勉強をという一人っ子にかける両親の意向が大きく影を落としている。「末は大企業の管理職」という将来の目標設定があまりにはっきりしているために、サッカー選手は「食べていけない職業」に分類されてしまっているらしい。また上海などの大都市では、空き地はすべてマンション用地になってしまい、サッカーをする場所がないことも子どもをサッカーから遠ざけてしまっているという。
1) “国策”としてのサッカーの強化
しかし、中国サッカーの存亡の危機と位置づけ、国家ぐるみでサッカー強化の動きを始めたようだ。ダイアモンドon line “China Report” 2012年1月13日号によれば、昨年末には、国家体育総局が率いる中国サッカー界代表団が視察団として東京を訪れている。過去の訪日とは大きく顔ぶれは違っていて、サッカー関係者のみならず、中国政府の上層部、国務院研究室、教育部、発展改革委員会なども含まれ、地元紙は「異例のメンバーだ」とその緊張感を伝えていたという。中国指導部が相当な危機感を抱き、国を挙げて根本的に取り組もうとしていることが伺える。
こうした取組みに中国が本腰を入れ始めたのは、サッカー好きの習近平副主席が号令をかけ、サッカーを強くすることが“国策”になったからだと言われている。国家副主席の“習近平”(2012年10月に予定される中国共産党大会で“胡錦涛”の後継者として総書記に選出されると考えられている)は、大のサッカー好きで知られているが、3年前にドイツを訪問した際、面談した製薬企業バイエルのヴェリング会長に次のように語ったらしい。
 「北京オリンピック開催を経て、中国はサッカー以外のスポーツでは金メダルを取れるようになったのだから、次はサッカーをレベルアップしようと決意している。中国のサッカーをレベルアップさせて、中国チームがワールドカップで優勝することが私の夢だ。」(出所:日経ビジネス 2012年1月6日号)
今年の中国スーパーリーグは16チーム中13チームが外国人監督を招聘した。岡田監督の監督就任は、こうした流れの中にあったようだ。
2)中国でのチーム作りにおける難しさ
さて、このような状況のもと岡田監督は中国のプロチームの監督となったわけだが、中国でのチーム作りは、日本では想像すらしない特異な事情を理解すること、その上で、その壁を崩していくことが求められるようだ。
例えば、私も大変驚いたのだが、中国のリーグには『領隊』という人間を必ずベンチに置く決まりがあるという。軍隊から来ている制度らしい。領隊は共産党員でなければ認められず、思想教育を受け持ち、態度等を注意するらしい。「ベンチ内は全部監督が仕切る」と言っても、監督は共産党員ではないので領隊はできないのだ。岡田監督は、苦肉の策として、クラブの社長を領隊としてスタンドに残し、コーチを領隊代理としてベンチに置く方法を考えていて、何とかリーグの許可が下りるところまで来たらしい。
 あるいは、例えば、クラブには1人もスカウトがいないという。どうやって選手を見つけるのかというと、コーチや選手が自分と同郷の子を連れてくる。入団テストを受けさせる見返りに子供たちの親から仲介料をもらう。クラブを解雇された選手の移籍先探しも、そういう地縁とか人脈が複雑に絡み合ったルートをたどって自分で行うらしい。要するに、縁や人脈によって成り立っている社会なのだ。
3)人脈社会から実力主義への脱却
このように中国は人脈社会なので、選手の採用のみならず起用なども「誰に連なるか」で左右されるという。コーチがやたら『この選手はいいよ』とプッシュしてくると思ったら、その選手と同郷だったということもあるらしい。
岡田監督は、就任して間もなく、一軍だった選手の8人をも解雇し、代わりにユース年代から7選手を引き上げた。「無理に若返らせたのではない。ボールを大事にするサッカーに合わせてうまい選手を残したらそうなっただけ」と言う。しかし、実は、解雇した選手の中にはオーナーの甥もいたらしく、リストにその名前を見つけた周囲は「そこに手をつけちゃ駄目だ」と騒然となったという。しかし、最終的には岡田監督が進退をかけてオーナーと直談判し承服させている。
岡田監督は言う。「選手と面談すると、彼らは口々に言うんだよ。『今までは試合に出る、出ないが“関係性”で決まっていた。今年は監督が実力で判断してくれるからうれしい』と。」(出所:日経新聞 2012年1月26日号)
4)サッカーを超える岡田監督の挑戦
岡田監督が先鞭をつけたことで、これから日本人監督の職場が中国に限らず、アジアの他の国にもどんどん広がっていく可能性があると思う。岡田監督は以下のように語っている。
 「中国のリーグでも韓国人の監督なんかもっと前からいるわけ。ご存じのようにブラジル人の監督なんか世界中にいる。中国は場所によっては沖縄に行くより近いんだから。日本人監督は外に出ても能力的には十分やれるのに、何となく大変なことだと思って、これまでは外に出てやろうとしなかった。それだけのことじゃないかな。」
また、岡田監督が引き受けたのは、単にサッカーの監督に留まらない、サッカーを超えた何かというふうに私には見える。
「今回のオファーをもらったとき、自分の中で衝撃というか衝動が起きた。これからの世界のカギを握る中国を実際にこの目で見たいと。報道でしか知らない反日感情とは実際にどんなものなのかと。」
「早稲田の学生だったころ、高麗大のサッカー部と一緒に韓国国内を巡業したことがある。釜山の試合では空き瓶と缶と罵声を投げつけられてショックを覚えた。でも、普段一緒に旅をしている高麗大の学生や関係者とは違和感なくつきあえた。このギャップは何? とその時感じた。日本と中国も政治とか上のレベルではいろんな駆け引きがあってごたごたしているのかもしれないけれど、大半の国民同士はもっと普通につきあえるのではないか。そんなことを確かめたいと思った。ハンチントンの『文明の衝突』じゃないけれど、日本と中国と朝鮮半島の情勢というのは、これから緊張を増していくかもしれない。そうしたときに政府レベルでは解決できない問題の糸口を、人と人のグラスルーツの小さな絆によって見つけられるのではないか。」(出所:日経新聞 2012年1月27日号)
中国サッカーは日本ではなかなかテレビで見る機会はないが、私はたまにマニアックなサッカーバーにでも行ってビデオをリクエストして、人脈ではない実力で構成されるチームのゲームを楽しみたいと考えている。そして、岡田監督の中国での挑戦に思いを馳せ、応援したいと思う。

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