【サッカーから学ぶ組織開発・人材開発:松村卓朗】:第11回データからサッカーを見る~サッカーのKPI(重要指標)~

この度、『本田にパスの36%を集中せよ』という本が出た。
昔から、テレビから流れる次のような解説者の感覚的な言葉には、眉に唾をつけてきた。
「この時間帯が特に重要ですよ。」(と、どの時間帯でも言っているので)
「先制点を取られましたが、逆転のチャンスはまだまだある、ここからが勝負ですよ。」(逆転できる可能性は果たしてどれほどあるのか)
「セットプレイですから大チャンスだ、得点が期待できますよ。」(そもそも流れからよりもセットプレイの方が本当に得点できるのか)
この本は、こうした私自身が疑問に思ってきたもののなかなか真実が分からないでいた現象に、客観的データを用いて霧を晴らしてくれるのではないかと期待して手に取った。
データスタジアムという会社の社長が書いた本だ。この会社はプロスポーツの世界にデータ分析というビジネスを持ち込み、まずは野球で実績を挙げた会社だ。5年ほど前に千葉ロッテが大躍進し優勝した年があったが、同社が開発した解析ソフトにボビー・バレンタイン監督が関心を示し、いち早く取り入れたことが躍進を支えたと当時マスコミも話題にしていた。今ではほとんどのプロ野球チームがこの解析ソフトを使っていると聞く。
千葉ロッテが優勝したとき、データスタジアムのデータを活用してプロ野球の見方を解説した『データで読む常識をくつがえすプロ野球』という本が出た。当時私も読んだ後、「野球では、監督やコーチの経験や直感で試合の采配をふるう時代は完全に終わったんだな。サッカーではいつ来るのかな。」と漠然と考えたことを思い出した。
『データで~プロ野球』にあらためて目を通してみたが、徹底したデータ分析で様々な考察を試みている。例えば、「初回失点だとかなりの確率で負け」といった分析結果などが興味深かった。ほとんどのチームは初回に失点した試合の勝率が


約1割~4割に留まる。ちなみに2005年に巨人は5位と低迷したが、実際に初回失点数が128点とダントツのビリだったらしい(優勝した阪神は62点)。著者は「いっそ、初回限定の先発投手がいてもよいのではないか」という大胆な提案をしている。
こうしたデータ分析結果から、これまで当たり前とされていたプロ野球のセオリーのいくつかをことごとく葬り去っている。中でも特に印象に残ったのは、「無死一塁なら送りバント」という野球の常識(と私も思っていた)を覆したくだりだ。2005年のプロ野球で、無死一塁の状況で送りバントをして得点できた確率はセ・パともに40.6%。対して、ヒッティング(強攻策)ではセ42.0%、パ41.9%と、ヒッティングのほうが得点確率が高いという事実が示されていて驚いた。これまで、無死一塁で送りバントをしたときに「セオリー通りですね」などと野球解説者が言っていたのは何だったのかと思ったものだ。
データスタジアムが分析対象とするデータは、まさにひとつひとつのプレイのすべてだ。例えば、打者の場合なら「左投手が内角に投げたスライダーに対する打率」などというものまで揃っているそうだ。サッカーに比べると確かに野球はデータが取りやすく、データの記録方法も分析も随分先行している印象がある。
一方サッカーでは、『本田に~集中せよ』によれば、少し前まではサッカー選手ですら、データと言えば、得点数、シュート数、コーナーキックやゴールキックの数ぐらいしか思いつかないくらい貧弱な状況だったらしい。
しかし、例えば攻撃に関するデータで言えばシュート数だけではなく、シュートまでの時間、シュートを打つまでの縦の移動距離、経由人数、人毎のパスの数と成功率、エリア毎・方向別の成功数と成功率、クロスの数、クロスを上げた位置、カウンターアタックの数・・・と、それこそデータで取って見るべきことは限りなくあると著者は言う。
そもそもサッカーでは、シュート数やコーナーキックの数以外のデータを取るのが極めて困難だったという事情があり、これまでデータ自体が存在しなかった。サッカーのデータをとるには、1試合ごとに気の遠くなるような作業を行う必要があるという。人とボールの速い動きを追いかける技術がなかったのだ。Aチームのa選手のキックオフのパス→b選手がパスを受ける→b選手がc選手にパス→c選手がパスを受ける→d選手がクロス→e選手がシュートといった動作を、一つ一つのプレイを行われた場所と共にすべて手入力するのだ。また、そのプレイが「パス」なのか「クリアしたボールがたまたまつながった」のかを目で見て判断して記録しなければならない。1試合入力するだけで8時間以上かかっていたという。
それでも、最近になってテクノロジーの進歩でより詳細にサッカーの1つ1つの試合のデータを取る事が可能となった。プレイスピードへの対応が可能になり、完全自動化は無理であっても、かなりの部分が自動化でき、入力作業の省力化が図られるようになったらしい。これでサッカーにもデータ革命が起きる素地が整ったと言ってよい。
そうして取れるようになったデータを元に、『本田に~集中せよ』では様々な分析を試みていて、面白い示唆がいくつも提示されている。中でも、サッカーの試合における「勝利の為のKPI(Key Performance Indicator=重要指標)」についての考察は興味深かったので、少し紹介したいと思う。
いくつかのデータを組み合わせて分析した結果、攻撃におけるKPIは、「(アタッキングエリアでの)前方へのパスの成功率×16秒以内にシュートした数」という指標を導き出している。「前方へのパスの成功率」が高ければ、確かにそれは相手のゴール前に近づきシュートを打つ可能性が高まるということだ。「16秒以内」というのは、W杯南アフリカ大会すべてのシュートにおいて、相手のボールを奪ってから何秒以内にシュートをしたかというデータの中央値を算出したものだ。W杯南アフリカ大会での上位チームはこの2つの数値が高く、一方ベスト16で終わった日本は2つとも値が低かったということが示されている。今後世界に伍していくには、この2つの数値が上がるように戦術を練り、技術を高めていくことが一つの方向性ではないかという提言をしている。
我々も、勝つ為のKPIが見えているだろうか。企業で言えば売上や利益といった、サッカーで言えばゴール数やシュート数といった最終目標だけではなく、KPIを練りに練り、明確に設定し測定し、そして日々の技術向上や目標達成に活かしているだろうか。
「オイシックス」という会社がある。有機野菜などの安全食材宅配を行っているが、KPI経営で一躍有名になった会社だ。具体的には、オイシックス5大経営指標というものがあって、「売上」「限界利益」「新規顧客数」の他に、「やみつき率」「特定セグメントのサヨナラ率」といった指標を重要視している。「やみつき率」とは、ある特定の商品をある頻度以上買う率で、「特定セグメントのサヨナラ率」は、ある特定セグメントから離れた率ということだ。極めてクリエイティブな指標と思うし、実際に各人の行動を喚起し、現場の工夫を生む指標となっているようだ。
「何をKPIとするか」はとても難しい。しかし、目標の少し手前のステップで目標達成に必要なアクションの増減を左右する指標を見つけて設定するのは、極めてクリエイティブな作業だ。
オイシックスの高島社長は、「最終的な目標に対して、その達成につながる状況を見る指標を設定するのがトップの最も重要な仕事で、どうやればその指標を達成できるのかまではトップには分からない、それこそ現場が創意工夫して達成する術を考えるのだ、それがオイシックスの躍進の原動力となっている」といった趣旨のことを述べている。(参考:「Think!」2010年春号)
ところで、この稿の最初に示した私の長年の疑問には、この本は直接答えてくれたわけではなかった。しかし、この本をきっかけにして調べてみると次のようなことが分かった。
・「点の入りやすい時間帯は?」:他の時間帯に比して点の入りやすい時間帯は前半5~6分、後半15~16分、後半40~41分。従って、解説者が「この時間帯特に重要ですよ。」と言えるのは、この3つの時間帯だけのはずだ。
・「逆転できる可能性は?」:先制したチームの勝率は70%。そのまま相手に点を与えず前半を終了すると、その確率は75%程度まで高まる。ちなみにサッカーのスコアは2-1が多い。そして、点が入るパターンは、1-0 → 1-1 → 2-1が多い。即ち、サッカーは先を制するのが極めて有利なスポーツだ。
・「セットプレイの方が得点できるのか?」:日本代表のセットプレイでの得点率は47%(岡田ジャパン)、42%(オシムジャパン)と高い。しかし、Jリーグ全体では、セットプレイの得点率は25%にすぎない。 各国代表戦であっても、例えば前回(2008年)のEURO(欧州選手権)では18%に過ぎなかったので、セットプレイは日本代表特有の得点機にすぎないようだ。

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